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(倭封筒に認められた、半紙に近い薄い便箋。
細いペンで綴られたムロマチ文字は、整ってはいたけれど少し神経質な右上がり。
昔と何ら変わらない筆跡であった)
◆
拝啓、真白き翼の鳥人殿。
陽春の候、いかがお過ごしでしょうか。
桜の咲く頃にはお返事をする、と言っていたのですが・・・。
いつのまにか、一重の桜には葉が目立つようになり、それより遅い八重の桜が、
咲き揃う日和になってしまいました。
けれど身辺もようやく落ち着き、静かな心で過去に向かい会えるように、
なったと思います。
思った以上にお待たせしてしまい、不安を感じさせてしまったかも知れないこと、
お詫び申し上げます。
なんて今さら少し、他人行儀だろうか。
君には普通に話すことにするね。・・・大切な旧友だから。
あれからどのくらいの月日が経ったのかな。
7年ほど・・・?
君も随分と変わったのだろうね。
僕も、何かと変わったのではないかなと、思うよ。
何から話すべきだろうか。
何を話しても、妙に長く要領を得ない話になって、しまいそうだな。
あの時、この身から『竜』を抜き出した後、正直あまり良い状態では、
無かったようで。
心身を守るために一先ず、僕は祖母に当たる樹妖の女性に、保護されたんだ。
祖母は、僕の命を守る手段として、妖の秘術を用いて。
竜に荒らされた魂を分割し、祖母・白で手分けして管理し、いくばくかだけの意識は、
生命保持のため体に残していたのだけれど。
けれどそこで予期しないことが起こった。
祖母も知らないうちに、体から魂が離れてしまい、遠き大陸まで・・・、
自分と、波長が合うらしい人のところまで、飛んで行ってしまったんだ。
当然ながら、魂と切り離された体は、弱って行くよね。
祖母が何とか延命を試みたけれど、以前の僕の体は死んだも同じ状態になったと、
思って貰って結構だと思う。
今の僕の体は祖母が改めて産み出したもの。
だからもう、ムロマチ人という括りには入らず、正確には祖母と同じ妖怪・・・。
『柳の樹妖』という事になるのかな。
前の体の一部を使っているから、半妖となるのかも知れないけれど。
妖術を用いて造られた、人造の生命であることは、間違いないね。
見た目にはそう変わっていないと思うけど。
まぁそんな具合で今は、ティーラ殿からもう、聞いてはいるだろうけれど、
ナハリという国にいるよ。
少しずつ国の仕事をお手伝いして、軍務やら内務やらに出入りして。
私生活では、とある医師の元で家事などを、請け負ってる。
昔は全て白に任せていて、自分で布団の上げ下げさえ、しなかったものだけれど。
今は料理本を見ながら、お菓子以外にもそれなりのものは、作れるようになったよ。
主君・・・医師殿は、ワンマンで意地悪で、気難しくて。
けれど僕を必要としてくれる人。
端から見れば、虐げられているように、見えるかも知れない(いやまぁ実際そうか)。
でも、確かな愛情や愛着を、日々感じている。
・・・そんなこと本人に直接言ったら、「気持ち悪いことを言うな」と廊下の端まで、
投げ飛ばされてしまいそうだけれどね・・・(苦笑)。
最初は、いろいろな葛藤があったけれど、今は・・・幸せ。
それと同時に。「貴様は俺の所有物だ」という、主の宣言を聞くたびに。
血の色が美しいと、刃を立てられるたびに。
あの頃の君は、僕にこういうふうに愛されかったのだろうか、・・・と。
思ったりするんだ。
けれどそれはやはり無理な話だったよ。
主と暮らし、彼の事を知れば知るほど、その気持ちは確信に近くなる。
僕は彼と同じことは出来ない。根本的な性質が先ず正反対。
主のような愛情の伝え方は、僕にはきっと一生、無理なのだと思う。
思えば、お互い幼かった、あの頃。
君と僕は、同じパイを取り合うような、関係だったのだろうか、と。
今は少し滑稽に、その時のことを、思い返すんだ。
傷付け合ったと思う、でも、それはどちらが悪いとか、そういうことではなく。
ただお互いが、無い物ねだりをし合っただけ、だったのかもな。
そう・・・今は思ってる。
君も今は幸せなのかな。
体を悪くしたという、その一節が心配でならない。
けれど僕は一介の妖怪。今は故郷との交流もなく、幻術くらいしか使えぬ身。
何ら役に立てそうにないのが口惜しい。
よしんば何かを出来たとしても、それは妖術に類するものであるから、
きっと君の心身を歪めてしまう。
遠くこの地より、快癒を祈るくらいしか、出来はしないようだよ。
もしいつか、また旅に出ることが、あるとするなら。
誰も知らない遠くへ行く、その前に・・・少しでも。
少しだけでも、こちらに寄って貰うことが、出来るならば。
どうぞ顔を見せて欲しいよ。
最近なんとか作れるようになった、雪国の郷土料理をご馳走するから、ね。
勿論。
もう会いたくないと思ったり、会うことで苦しみが蘇るようなら。
今言ったことなどは、気にしないで。
君がこの世界のどこかで生きて、今は穏やかに暮らしている。
それを知れたというだけで、僕には千年の罪が許されたに、等しいのだから。
君には、聞きたくない話も多分に、含まれていたかもと思う。
まぁもっとも7年も経った今、そんなことは気にならないかも知れない。
けれどこれが今の僕の生活。
世間一般でいう『成功』や『安泰』は、どうやらもう手に入らなそうだけれど、
きっと、僕にしか感じられない『幸福』を、今は手にしているから。
心配は・・・、しないで・・・。
其れじゃあ、今日のところは此れで。手紙を有難う。とても嬉しかった、よ。
まだまだ春雨の多い時節柄、一層のご自愛をお祈り申し上げます。
敬具
まだ雪深い街並みを眺めながら 柳 伽藺 拝
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。