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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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空も青さを増してきたね。初夏の折、どう過ごしているだろうか。
涼しい気候だと聞いているので、少しは楽なのかと思うのだけれど。
あぁでも君は暑さ寒さには、元よりあまり弱く無かったかな。
・・・僕が弱すぎたのかも知れないけれど(苦笑)。

こちらは、ううん。

今、住んでいる屋敷のあるところは温暖な気候なのであまり、
夏は過ごし易くはないかな。
でも、広く森林が分布している地域なので、空気は良いよ。
だから夏で暑いとはいっても、温度の低いミストサウナのような、
比較的心地良い暑さかな。
夜は涼しくて、少し散歩をするのには、いい感じの土地だよ。

少し歩くと海岸線もあるしね。
(この前知って、驚いたのだけどね!)

仕官している国はいわゆる雪国で、雪解けの時期に限らず年中、
どこかで雪崩れが起きているらしい。
それでもそろそろ、温暖さを感じられるように、なって来たかな。
景色のあちらこちらに、まだ冬の名残りが見られる、
避暑にはちょうどいい場所かも知れない。

こちらこそ、お返事が遅くなってしまって、申し訳ないよ。
ティーラ殿も待たせてしまったろうかね。
お侘びというのではないけれど、夏用の部屋着を仕立てて、
お渡ししてみたよ。
ムロマチ風の衣服も、嫌いじゃなければ良いのだけど、ね。

・・・そうだね。
お互い、7年・・・8年もあれば、色々あるし色々変わるよね。

あの頃のこと、実をいうと僕ももうあまり、覚えていないんだ。
君はきっと側に、いてくれていたのだろうな、と・・・思う。
けれど僕は怖かったのかも知れない。
僕を大切に思ってくれていた、全ての友人たちを。
勿論・・・、君のことも・・・。

理由はどうあれ、僕は逃げたのだと、思う。

うん・・・、そうだね・・・。
恋というにはあまりにも、未熟な感情だったのだろうね。
お互いに・・・だけれど・・・。

けれどそれとは違う形で、互いを大切に思っていたことは、
事実としてあったと思っている。
多分あの時、僕はただ・・・。
皆で楽しく仲良く、幸せにじゃれ合っていたい、と。
恋よりも何よりもそれを、望んでいたのだと・・・思う。

壊してしまったのは自分だって、今でもそれは思っているよ。
戻って来て、再び出会った人たちには、
なるべく謝って回っているけれどね・・・。

僕が好きだったあの国はもう無い。
勿論、今でもとても魅力的な場所だよ、ツェンバーは。
義兄上が頑張っていたり、国王殿も明るくて素敵な方で。
いつか国内事は一段落したら、少し時間をいただいてまた、
遊びに行きたいと思ってる。

でもね、あそこはもう、あの国じゃない。
君や僕が少年時代を過ごしたあの国じゃ・・・。
『帰れる場所』ではあっても、『戻れる場所』では無い・・・。

僕は・・・。
愛されていたのだろうか、今もまだわからないや・・・。
必要とされて慕われた分また、痛い感情を向けられることも、
多かったし。

妬み・・・その感情が、一番辛かった・・・。
かつて、上司だった女性から。師とも仰いだ方から、
そして主として仕えた主君から・・・。
恋をする少女からの、よくわからないライバル宣言も、
あったろうか?
とにかく、そういう感情が嫌で、怖くて。
けれど必要としてくれる、慕ってくれる人たちの手前、
逃げることも出来ずに・・・。

それでも、『愛されて』いたのだろうなと、今になれば、
少しは納得出来るかな。
攻撃をしてきた(と自分が思い込んだ)人たちも、
本当はその前に、僕に『裏切られた』と思ったからなのかも、
知れない。
心当たりは、無くはないから、・・・ね。

君にはあの時期、甘え過ぎていたのだろうな、と思う。
聞いてくれるのをいいことに、痛い、辛い、と。
考えてみれば、幼い少年に言う事でも、支えてもらうことでも、
無かった。
でも君は精一杯、支えていてくれたのだろうな、と・・・思う。

・・・だからね。
君に『恋をしていた』とは、うん。・・・言い切れないけれど。
あの時期の僕にとって、君が他の誰にも代えられない、
特別な存在であったことは確かなんだ。
それは・・・信じて・・・。

そして今も。
『旧友』という括りにおいて君は僕の大切な存在。
ひょっとして、ずっと眠っていた僕なんかより、
遙かに成熟しているのかも知れないから(精神的な意味でもね)、
弟的存在なんて、図々しいことは、言わないけれど。

大切な友達。
誰にも成り代わることの出来ない、親友といっていいほどの旧友。
多分、良い意味でも悪い意味でも僕を、君ほど知っている人は、
そうはいないと思う。

あの頃、僕がどうしても違和感を感じて、納得できなかったこと。
君の感情が・・・『恋』ではないのだろうこと。
それを認めてくれて、正直今は、嬉しく思っているよ。
それを認めることで君は、過去の執着を断ち切って、次の段階に、
踏み出せるようになるのだと思うから。

謝る言葉・・・か。謝られるようなことでは、ないと思うのだけど。
僕が素直に、それを受け取ることが、君の平穏に繋がるのなら、
ここは受け取っておくね。

そして。
『もういいんだ、回り道はしたけれど、互いもう理解したのだから。
これで立ち止まれずに、次に進み出せるよ』って、返すことにするよ。


過去の亡霊・・・、そうなのだろうか・・・。
・・・どうなのだろうね?
君を過去の後悔の元凶として、切り捨てるつもりなのなら、
こんなふうに手紙のやり取りはしないけれど。

確かに僕は過去の君しか知らない。
だから瞼に映る姿も、無邪気で優しくて少し我侭だった、
天使のようでいて小悪魔めいた、明るい少年の姿でしか無い。
だからどう変化したか・・・、想像も出来ない・・・かな。

けれど他人に、今の君の状態を訊ねるようなことは、
したく無いと思う。

君は何れ、会いに来てくれるだろう、と、信じている。
心身の都合で今は無理でも。何年・・・何十年、経っても・・・。
いつしかその『病』が、体を蝕むことが、あったとしても。
考えたくないことだけれど、体が朽ちて魂だけの存在になっても。

君は自分で会いに来てくれると思っている。
若しくは自分の筆で、教えてくれるだろうと、思っている。
だから、君から直接でなければ、変化は聞かないでおくよ。

半年前の僕にとって、君は過去の罪の象徴でしか、
無かったのかも知れない。
けれど今の僕にとって君は、紛れもなく『遠く離れた友達』だ。
幼い頃の姿しか、思い浮かべることは、出来ないけれど、
君を過去の遺物だとは思っていない。

それどころか。
こうして本音を話し、赦し合ったことで、これから先は新たに、
今までとは違う友情が築けるって信じてる。
楽観的・・・過ぎるかな。能天気だって呆れた・・・?

『あなたの魂がある事が、あなたをあなただと立証するのです』
君がその言葉をくれるのならば、僕もそっくりそのまま返すよ。
・・・君は亡霊でもなければ僕の罪でも無い。
こうして、手紙をしたためてくれて、心を砕いてくれている、
その君はこの世界に『今』息付いている。

君の生きる世界は過去じゃない。
現在であり未来なのだと、そのくらいは分かっているつもり。


・・・ふふ、本当にこれでね、何も出来なかったんだよ。
生活無能者・・・っていうのだろうか・・・。
何でも出来る印象があるなら、白が頑張ってくれていたのだろう。
今は国内で、軽食も出すような喫茶店を開く程度には、
家事にも精通して来たかな。
喫茶店といえば、あの国で君が開いていたね。思い出すな・・・。

雪国の料理は意外に色々なものがあるよ。
煮物が多いかもしれないけれど、山海の幸も豊富な国だから。
僕が喫茶店を開いてから、作ったものといえば、

『水の都イプレ直送・朝獲り鮮魚のクリーム煮』
 あっさりとした白身魚に、ハーブと岩塩を染み込ませ、
 白ワイン入りのクリームソースで煮て、
 最後にローズマリーを散らせ、軽くオーブンで焼いたもの。

『ナーシャ高原羊の冷やし蕎麦』
 選び抜かれた子羊の肉を、惜しみなく使った冷やし肉蕎麦。
 腰のある田舎そばに、海苔と葱をたっぷり掛け、卵を混ぜ込んで、
 胡麻油の効いた漬け出汁で食べる。ビールに合う濃い目の味わい。

『6月のイプレ鱚尽くし定食』
 六月の鱚は絵に描いたのでも食え、と言われるほどの旬の味覚、
 キスのフライ。
 折角の旬の魚なので、化粧塩を施した姿焼き、淡白な薄身のお刺身と、
 キス尽くしの定食。

『ベリーのタルト』
タルト生地に、チーズをたっぷり使ったクリームを、敷き詰めて、
その上に溢れるほどたっぷりの、ベリーのシロップ煮をあしらい、
透明なゼリーを流し入れた冷たいスィーツ。

他にも色々作ってはいるのだけど、何せ運でメニューが決まるので、
書けないようなものも多いのだよね・・・。
(雪崩おこしとか雪崩おこしとか)

ニハレス湾で取れるイカやエビ、農村地ルデーロで獲れる野菜、
寒冷地の食べ物は味付けしなくても、甘味や旨みを含むものが多いね。
いつか倒れそうになるくらい、ご馳走したいと思うよ。


過去の話は・・・、もう・・・半ば忘れているから・・・。

今の暮らしは、うん。
ええと・・・上手くやっているよ、ということと・・・それから、
あ。主が・・・少し前から、恋人ということに、なった・・・かな?
まぁその前に、主従であることに変わりは無いから、
何が変わるといった訳でもないのだけど。

でも・・・うん、ええと・・・自信みたいなもの、・・・は、
付いた・・・かもな・・・??

君の今の暮らしについても、よければ聞かせて欲しいな。
穏やかで、安らかでいられているなら、それはとても喜ばしいから。
そして君とは改めて、友達になりたいと、思ってる。
しばらくは、こうした手紙のやり取りに、なるのかもだけれど。
知り合うところから始めるつもりで、また仲良くなれたらって思うよ。

それじゃあね、イド。
君も君の幸せを信じて、心穏やかに暮らしてください。
いつか、必ず元気な姿を見せてね。いつまでも待っているから。

・・・?
あの頃の言葉って、一体・・・何だろう・・・??

    高さを増した青空の下より     柳 伽藺 拝

追伸
最近ね、娘のような存在の少女が、出来たんだ。
ふふ、優巳が帰って来たようで、少し嬉しい。
戦争の時・・・僕はあの娘を、護り切れなかったから・・・。
けれどねその子、外見は少しあの頃の君に、似ているんだ。
・・・何かの巡り合わせだろうかね?
 

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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