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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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家に戻り 俺は師匠にその旨を伝えた
「オレとアイツの 何処が似ているって?」と・・・
師匠はオレが相手の顔を 見に行ったという事自体には
驚いたようだが オレの問いにははっきりと 答えなかった
「・・・何でなんだろうな ただアイツも昔はああじゃ
無かったんだぜ?」
少し淋しげに師匠は呟いた
「詳しくはいいたくないが・・・ 
ああなる前のアイツは もっと明るくて泣き虫で 甘えっ子で
ドジで・・・」
「何それ? それってつまりオレが 泣き虫だとかドジだとか
言ってるの??」
藪睨みで見上げたオレの問いに 師匠は答えず小さく笑っていた

「今はアイツ 『魔性』を宿して いるからな」
ぽつり 思い出したように 言葉を紡ぐ
「ま・しょ・う?」
首を傾げるオレに 静かな口調で 師匠は伝えた
「アイツ自身に 自覚はないのだろう・・・
けれどそれは ヒトの心の隙間に入り込み浸透し そして全てを
奪い去る・・・」
「何それ」

少し苛付いたように言うオレに 師匠が少し困ったような笑いを
浮かべる

「ま 簡単に言っちまえば 俺らの先祖・・・ なんだけどな」


「アイツ 見掛けによらず よく食うだろ?」
「うん いつ見ても団子やら煎餅やら 食ってた」
「けど・・・太らないだろう? というか 寧ろ病的な体格を
してる筈だ」
少し思い出して オレは頷いた
「多分 アイツの摂取している食物は アイツ自身に吸収されては
いないのさ
・・・菓子やらなんやらを 好んで摂っているうちは
アイツの餓えが癒えることは無いだろう」
「へぇ?」
菓子だろうが何だろうが 食えば満腹になるのは 当然なのだと
思うのだけど

「『魔性』は常に『血肉』を 望んでいる筈だからな
アイツは常に そういった食物を 拒んでいるのだと思う
そして・・・これは憶測だが ヤツの一番の好物は
自らに想いを寄せる相手の 『生気』や『正気』なのだと思う」
師匠の紡ぐ言葉は オレにはあまりにも つかみどころが無くて
「それが怖くてアイツは 他者との深い関わりを避けようと
しているのだと思う
・・・多分もう 誰の『もの』にも ならないつもりだ
けれどあのままじゃあ アイツの方が永くは保たない筈
そして その時こそ・・・ 『竜』は・・・」
話は断片的過ぎて 理解出来なかったが 師匠が辛そうなのは
見て取れた


「おれのせいなんだ おれが独りにしちまったから」
頭を伏せて両手で押さえ うめくように師匠は呟く
オレはそれ以上を 彼に尋ねる事は 出来なかった
アイツに似ている・・・と そう師匠に言われながらも
決定的なところで アイツにはなれない・・・オレ
そんなオレに出来ることは 悩む師匠を無言で抱き締めて
包み込むことだけだった

オレは アイツには なれないから・・・
この人の心を 救うことは 出来ないから・・・

◆2003.6.21.

しばらくして師匠は 腰に刺している刀に 手をやった
その瞳には 哀しい決意の 色があった
その後 師匠は『里』の者たちと協力し アイツの中の『魔性』
・・・『竜』を討ちに行ったらしい
首尾については 一応の成功を見たらしい
けれど 手放しに喜べる結末でも 無かったらしい・・・
いつものことながら 黙り込む師匠からオレは それ以上を
聞き出す事はしなかった

・・・いいんだ
オレにとっては・・・ どんな苦痛や大怪我を 負ったとしても
師匠が生還してくれる事の方が 嬉しかったのだから

それでも・・・ いつもと違っていたのは・・・
師匠の落ち込みは 日が経っても癒えることが 無かっところだ
あれだけ大きな背中が 何故かとてもか細く見えたのを 覚えている
里の関係ではない 普通の『仕事』も受けようとしない彼を オレは
それ以上見ていたく なかったのかも知れない
戦闘能力のほぼ無いに等しい オレにでも出来る情報系の潜入調査の
仕事を勝手に取って オレは師匠の家を出て行った

・・・その先で 現在の伴侶であるソルの 訪問を受け
そして今に至る訳なのだけれど 


師匠がオレに重ねたアイツ
オレに全然 似てないアイツ
アイツとオレがどうやら 単なる『通りすがり』の間柄じゃない
らしいということに 気が付いたのは転生してからだった

オレの目の前に現れる白い影
どうやらオレ以外には 見えないらしい
何を言うでも無く ただ淋しげな笑みを浮かべる その姿は
もう彼がこの世の存在ではない・・・
オレと一週間を過ごした時の あの状態で存在している訳では
無いのだろう事が 確証はないが感じ取れた
かといっていわゆる 『死霊』というものでも また無いらしい
どうやらどこかに『存在』は しているようだった

「迷って・・・ いるのか・・・?」

小さく呟く
影はやはり困ったように 小首を傾げるばかり

◆2005.10.2.

そんな日々が続き オレもすっかり参っていた
あの影が気になって ゆっくり眠ることも出来ない
それどころか時々 とても辛い感情が オレの心にダイレクトに
流れ込んで来る
そして映像・・・記憶・・・
断片的にしか入っては来ないのだが 彼の苦悩や絶望の理由を
少しは理解出来た気がした
これが・・・ 彼の『魔性』・・・?
いや 違うな・・・
それはもう 退治して追い出したと 師匠は言っていた
今のアイツには そういった禍々しいものは 宿ってはいない筈
けどオレにこんなプレッシャーを 与えてくるってことは・・・
オレにだけ見えて オレにだけ流れ込んで 来るってことは
つまり アイツとオレは・・・


師匠はオレとアイツの 似ている理由がはっきりとは
分からないと言った
けれど何故か重ねてしまう 重なってしまう・・・と・・・
そういえば師匠は理論でなく 直感や『匂い』でものを判断する
タイプだった
・・・歳も違えば性格も違う 生まれた場所も環境も
けれどオレと・・・ アイツは・・・

そんな事が あるのかどうかは 分からないけれど
けれどどうやら オレと・・・アイツは・・・
似た『周波数』の 魂を持っている・・・?
それは 運命的なものだったのかも 知れない
拒もうにも拒めない 仕方のないものだったのかも 知れない
・・・今までは気付かなかった
けれどその間にも『縁』はずっと 続いていたのかも知れない

師匠は本能的に『それ』に 気付いていたのだろうか・・・

そして どれだけ拒んでも・・・
この『縁』は 断ち切れないのだろう 互いが生きている限り
ならば・・・いっそ・・・
オレは手をスッと差し伸べた
『影』が不思議そうな表情を浮かべる

「・・・来る?」

覗き込んで問い掛ける

影は 少し驚いた様子を見せて それからやはり無言で
困ったように視線を落とす

「でないと どうしようも ないんだろ」

その言葉にもやはり 困ったような表情が 返される
肯定とも否定とも取れず オレは苛付いて声を荒げる

「じゃあなんで オレのトコにいっつも 現れンだよ!
鬱陶しいな!!
誰だっていいんなら 師匠のトコに 出りゃいいだろ!
あのヒトだったら ずーっとアンタを想って 心配してる
からさ!!」

師弟関係は既に 解消されていた事を思い出し
慌てて言い替える
それを聞くと 困ったように伏せていた 表情を・・・
さらに曇らせて 影は今にも泣きそうになった

「オレしか駄目なんだろ 結局・・・」

今度はコクリと 素直に頷く
 
「なら・・・来いよ
オレもこれ以上 眠れない夜が続くのは カンベンだ」

その言葉に意を決したのか 影はおずおずと近付いて
来たかと思うと 伸ばしたオレの手にその手を触れた


その瞬間 ずるりという音が聞こえた気がして
オレは自分の『精神』に何物かが 入り込んで来る感覚に
身震いをした

自我が意識の隅に押しやられるような
生きたまま脳を蝕み 喰らわれるような
自分の全てを否定されるような
けれどある意味 全肯定され・・・許容されるような
そんな感覚・・・

「あっ・・・あ・・・ あぁぁっ・・・!」

頭を抱え まるで悪夢に怯えた子供のように
漏れる嗚咽を隠せないオレに 隣で眠っていたソルも
気付いたようだった
肩やら背中に 温かい温度を感じる
・・・けれどその時には オレの意識はその影と共に
自身の内的宇宙へと 飛んでいた


そこは何と表現すればいいのだろう・・・
光と闇が絡み合い 雲のように流れてゆく 空間の中
オレとソイツは共に浮かんでいた
周囲にはまるで 映画のフィルムのように
互いの人生が 映像となって流れてゆく

それを見るだに 師匠がかつて言っていた
『幼い頃は 屈託が無かった』という言葉は
本当のようだった
倭の田舎とおぼしき場所で 子供たちが絡まり会うように
じゃれてはしゃいでいる
幼少期の師匠だと思われる ヤンチャそうな緑髪の子供
その背後に隠れる もう少し年少の 同色の髪の子供
腕の中には幼い子を抱えている

・・・『あれ』か

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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