久方振り、だね。
君はどこにいるのだろうか。この世界のどこかに居るのかな。
・・・其れとももう、居ないのだろうか。
僕は、何年ぶりだろう。
7年ぶりに・・・かな? この世界の空気を吸ったよ。
もう記憶もあやふやで、昔よりもずっと妖に近い、この身だけど。
あの時のことをずっと考えるよ。
ティーラ殿だったかな、あの方・・・も、会いに来られてね。
いろいろあるようだけれど、それなりに幸せな生活を、
なされているようだね。
家族・・・が出来たのかな?
少し、柔らかくなられたような、気がするよ。
さてね。
こうやって君に、多分読まれることは、無いだろう文を、
したためることにしたのは、
昨日ふと、思いついたことが、あったから・・・なんだ。
つまりこれは、厳密には僕自身への、文なのだろうね。
あの時の君の心が、僕はどうしても、理解できなかった。
同時に君の『甘え方』が、僕はどうしても許せなかった。
それが君を傷付けた。僕はずっと、そう思っていた。
けれどどうして。
あんなに僕は苛付いていたのだろう。
それには先ずね、僕たちの始まりから、話して行くね。
国のことで必死になっていた僕にとって、
君はそういったことを、全く気にせずに話せる、
気のおけない友人だった。
それと同時に国民でもあるかな、僕にとっては守るべき対象、
つまり子供のようなものだったよ。
そして、君はいつしか、あの女性。
芸者の彼女・・・に、憧れるようになっていた。
けれど、彼女の想い人は、うん。
あの時点では・・・僕だった(その後、いくつかの恋をして、
一度は身を落ち着けたことも、あるようだけど)。
そして君は言った。
君を、僕の『もの』にしてと。支配してと。
彼女に、受け容れられないなら、そんな自分はいらないから。
だから彼女の想い人たる、自分の『道具』になりたいと。
正直・・・は、困惑した・・・。
君のいない時間に、彼女に相談にも行ったり、した。
彼女は僕への想いを隠さなかったけれど。
僕の『恋愛』に対する怯えも、過去の事件も知っていたから。
それに何より名ばかりとはいえ、僕はあの頃は既婚者だった。
なので自分たちは、付かず離れず、決して互いには期待しない、
遊郭の芸者とその上客(なぜかたまに、働いていたけれど)、
そういう間柄だった。
・・・無論、色気の絡んだ関係では、無かったよ。
そして彼女と共に出した答え。
『今の彼は何をするかわからない』
『かりんさが拒んだら、きっと他の人のところにいくわね』
『あぁ、・・・多分・・・、兄上、かな・・・』
『其れならいいけれど、あの子はあれで交友関係が、広い』
『そう・・・だな。自分が受け容れるのが、一番・・・安全?』
『そうだと思う』
そして引き受けた。君を・・・『道具』にするのは、難しいし。
正直いって良くわからない。
だから『ペット』として可愛がろうと。
小鳥には足環だろうと、僕が作った装飾品。
君の瞳の色の意思を、埋め込んだその金色を。
・・・君は『足枷』だといって喜んだ。
あのね、本当は支配なんかしたくは、無かったんだ。
君が健康に健やかに。
誰かに愛されて、誰かを愛して、育ちますように。
そして、どう対応していいのかわからなかった、僕は。
君を手元に置いたまま、よくよく放置したね。
大体は仕事をしていた。多分僕は、ワーカーホリックだった。
しかも、仕事上の接待で、・・・その。
色を求められることも、たまには・・・あった。
当時はそういうのが横行していたんだ。
(理由は色々あるけれど、僕にそういった用命が、多かったのは、
言うなれば多分、当時の国王のやり方のせいだったんだ。
細かい説明は・・・、無駄話になるから、省くけれど・・・)
勿論なるべくは逃げていたよ。
けれど君を、不安にさせたのは、事実だったろうね。
君は、さびしさが極まって、まずは。
僕に・・・『嫉妬をさせよう』と、した。
とはいっても当時、君が頼る人はまず、僕の兄上だったから。
じゃれに行っては逐一、僕に報告していたね。
あの兄上のことだし、まさか妙なことは無いだろうと、思った。
けれどね。自分の『もの』になりたい、と言っている存在が。
妬かせて、振り向かせようとしたとしても、まさかその相手が、
義理とはいえ『兄』。
・・・それは男にとって、どういうことなのか。
まだ君にはわからなかったのだろうか。
兄上のことは、純粋に慕っていた。尊敬していたよ。
けれどね、男兄弟というのは本能的に、ある種の好敵手なんだ。
さらに同僚でもあったしね。
妬いたかと言われれば、妬いていたのだろうね。
相手のチョイスも含めて、君の作戦は見事だった。
僕を本気で怒らせて、愛を枯渇させる程度には、見事だった。
さびしがらせた方がいけないのだろうとは思うよ。
けれどあの頃の僕には、今よりももっと高い、プライドがあって。
自分から言って、ペットにした訳じゃない、なんて意識もあった。
そっちから言ってきたのだから。
しかも『恋人』ではなく、『道具』だろう、『もの』なのだろう。
ならば、主人の仕事が終わるまで、大人しく待っていて、
仕事が終われば、真っ先に出迎える。それが道理だろうと。
そんな事も考えていたんだ。
そりゃ、幸せになんか出来ないし、成れないないよねぇ(苦笑)。
だから君の行動は、とてもじゃないけど、許せなかった。
・・・多分、普通は・・・許せないんじゃ、ないかな。
今、お仕えしているドクターに、同じことをしたら、
多分その場で僕は、消し炭にされてしまうと、思う。
ドクターに、兄弟がいるのかどうかなんて、知らないけれどね。
話がそれたけれど、そんな君の『不実の報告』を受けて、
(本当に、その事実が行われていたのか、君の狂言だったのかは、
知らないよ。兄もそんなことに、口を開く人ではないし)
僕がいう言葉は何時も、「ならそちらに行けば?」だったね。
そうすると君はいつでも半狂乱になった。
言葉を失ったり、自傷で傷を作ったり、記憶を飛ばしたり。
此れがまた僕をうんざりさせた。
理由はもう割愛するね、昔もう君に伝えたと思うから。
ただ僕からしたらそれは、鏡を突きつけられるような、行為で。
だから同情を乞うているのか? としか思えなかったんだ。
さらには、君は知っているのだろうか、知らないのだろうか。
夢物語ということになっているのか。
君の兄上とそのご友人。・・・詳しい説明は、やはり伏せるね。
けれど其れと同じようなことを、かつて君と出会う前の恋人に、
僕がされたことがあってね。
とても愛していて守りたかった恋人だったけれど。
その一点においては、僕の意思ではなく、何だろう・・・。
魂の深みのあたりから、虫唾が走っていたんだ。
だからね、君まで同じことを、するのだろうかと。
そうだね・・・。
『君』は与り知らない事かも知れないね。
あくまで、『君』の兄上が行った事か、そしてそのご友人が。
けれど僕はその時、もう君とは共に行けないと、思った。
妖たちの力を借りて、仮死状態になって、その場を逃れたね。
おかげで、あの方が訪ねて来た時、本当に戦慄したものだよ。
もっとも此れは、君と僕が共同で見た、小窓の幻かも知れない。
だからあの方からすれば、「?」って感じなのかもね・・・。
あぁそうそう、だからあの時から、しばらく。
『パラレル』という言葉が、本当に怖くなっていたよ。
今は別にね、あの方に怯えては、いないよ。
その言葉に対する怯えも、かなり薄らいだと思う。
君に対してもね、以上に言ったことは、ただの説明だから。
当時の感情だから。
今どうこう、って思ってるわけでは、ない。
ここからが本題かな。
僕がこの前、気付いた・・・こと。
ずっと後悔していた。
風の噂で、君が『壊れた』ことを、聞いて。
僕が、『受け容れた』からだろうか、己の弱さを自覚せずに。
他の誰か・・・、兄上? に・・・任せれば、良かったのか。
さびしがらせたのがいけなかったのか。
けれどあの頃の僕にとって、一番大切なものは『仕事』だった。
愛すれば良かったのか。
けれど君は『支配されたい』と言った。
今、僕と主は『支配・被支配』に、近い関係にある。
気が向いたら、優しくもして貰えるけれど、基本的には、
僕から何か望む権利は、与えられてはいない。
(それでも結構、反抗しているけれど、ね(苦笑)
そして思う。
こういった関係を、君は望んでいたのだろうか、と・・・。
医師が僕にするように、僕も君を支配すれば、壊すことは、
無かったのだろうか・・・と。
けれど、そうではないのだろうことは、容易に想像出来る。
君は多分・・・耐え切れないだろう。
というか、僕とは体質が違うから。
初日の状態で息絶えていたかもねぇ(うーん)。
『妖』という、存在であるからこそ、斬られても千切られても、
半日から丸一日程度で再生する。
そのたびに痛みは感じるし、ドクターからは『化け物』って、
嬉しそうに罵られるけれどね。
けれどそんな今の生活も、僕は決して嫌いではないんだ。
(大変ではあるけどねぇ・・・;)
僕は支配するというよりも、多分される方に安堵を、
感じるのだろうね。
それでね、話が逸れたけれど。
君が何故僕を選んだのか。僕に何を求めたのか。
君はその感情を恋だというけれど。
僕からしたら、君の兄上から正しく貰うはずだった愛を、
望まれているようにしか思えなかった。
それをずっとずっと考えてた。
気が遠くなるくらい考えてた。
そしてこの前に、ふと、思いついたんだ。
君は僕を『欲しかった』のではなくて。
僕に、『成りたかった』のだろうか、って・・・。
何故か、とかは、わからない。
どういうとこが・・・も、わからない・・・。
ただ君は僕に、そういう形で『憧れて』いたのだろうか、と。
そう思ったらね、いろんな事に納得が、いったんだ。
彼女の『想い人』、その『道具』、つまり『一部』に、
なろうとしたこと。
僕の身辺の人にしか頼らなかったこと。
友人・知人は、ほぼ共通していたし、これは仕方がないか。
そういえば仕事上で、僕が何かをされて来た時。
『されて来たのと同じことをする』ではなくて、
『されて来たのと同じことをして』と言ったね。
抱かれることは、いつも強く望んでいたのに。
抱くことについては、不自然なくらいに怯えていた。
そして『自傷』『失語』『健忘』・・・。
後日はなしたとき、君は僕が話した(と思っていた)事を、
知らなかったと言ったけれど。
多分僕は話したし、だから君のあの行動を、からかっているのか、
同情を引こうとしているのか、としか思えなくて。
思うにね。
君は『僕』に成りたかったんだね。
もしそれが、もう少し早く、わかっていれば。
もっと違う形で、君を導けたかも、知れない。
(『恋人』にはならなかったと思うけど)
それでも、自分が嫌いで嫌いで、どうしようもない僕が。
自分に『成ろう』とする者を、愛せる筈が無かったんだ。
それが、僕の『弱さ』で、僕の『罪』。
僕はね。僕の『存在』を君に、あげようと考えていた。
それでも君は、狂ってしまうほど、僕を『求めて』くれたのかな、
と・・・思っていたから。
僕はもう、死んだようにしか、生きられないから。
君に僕をあげよう、こんな抜け殻のような僕で、いいかな?
って・・・思っていた。
でもね、ごめん。
それももう、出来ない・・・よ。
君は僕を『求めた』訳じゃなかった。
『憧れ』だけど、『欲求』じゃなかった。
そしてね、今・・・僕には多分、『求めて』くれる人がいる。
去るなという。去らせるくらいなら殺すとね。
けれど殺しても死ぬなという。まだまだ遊びたいかららしい。
とても歪んでいるとは思うけど、これって『愛』なんじゃないかな、
って、僕は思うんだ。
実際に、そんな扱いをされておきながら、僕は。
癒されていっている自分を・・・、
『死にたい』という感情が、小さくなっている自分を、感じている。
奴隷気質といわれたらそれまでかもね。
でも強く望まれて、求められる歓びを今は、噛み締めている。
多分ね、幸福なんだと思う、今は・・・ね。
いつまで続くかなんて知らないけれど。
ひょっとしたら、今晩にでも飽きられてしまうかも、しれないし、
殺されてしまうかも知れない、それでも。
ねぇ、君は今どこにいるのかな。
この世界に生きているのか、それとももう存在していないのかな。
今ね、君に逢えることがあるなら、言いたいことがあるんだ。
・・・君の望む大人に、君は成れるから。
願った夢はね、必ず叶えることが、出来るから。
だから君は、君の心と向かい合って、語り合って。
本当に欲しいものを、本当に成りたい君を、見つけてほしいよ。
って・・・。
ふふ、長くなってしまったけれど、ここで筆を置くね。
ごめんね、本来なら言わないで良いことまで、言ってしまったかも。
それでも全てを語らないと、何の説明も出来ないって、思ったから。
僕の罪は消えない。
でも僕はもう少しだけ、生きてみようと思う。
君にしてしまったことも、消えるものではない。
だから、恨んでもいい、罵ってもいい。
けれど出来れば、君は君のままで、おおきくなって、
大人になって欲しい。
それが、罪人たる僕の、贖罪であり、願いだよ。