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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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流れていく映像を追っていると 様々なことが分かった
彼は実姉と折り合いが悪い事
父母は まだ幼い彼と弟を置いて 里を出て
そんな彼を 本当の家族のように愛してくれたのは
師匠の家族に他ならなかった

従兄には歳相応の『遊び』を教わり
その姉である従姉には 作法から術法から剣技に至るまで
おおよその『教養』を仕込まれていた
まだ乳幼児である 弟を抱きながらも
この時代は彼にとって 人生一番の黄金時代だったらしい

やがて従兄が 冒険心に勝てなくなり 街へと旅立ち
淋しさ余った彼は そこを鎮守の祠に封じられていた
魔につけ込まれた・・・

彼はその『魔』ごと 自らの持つ魔力を 封印され
術力が 人の価値を決めるような その里においては
おちこぼれの鬼児であるような 扱いを受けることとなった
・・・少年が歳を追うごとに その顔から笑顔が無くなる
また 実姉の仕打ちも酷くなってゆき
ある日 実姉の仕組んだ『望まぬ結婚』を 強いられて
衝動的に外の世界へと 逃げ出して来た・・・


初めての旅 初めてのひとごみ
紆余曲折あって 何とか手に入れたのは 緑深き王国への
船便のチケット・・・
心細さと解放感が同居する生活で 出会ったのは聾唖の少女
やがて少女とは惹かれ合い 共に誘われた月の国への移住して 
将来を誓って生活を共にするが 少女は何故か服毒自殺を遂げ・・・

次に愛してくれた女性も 彼を諦めるべく別の屋敷に
メイドとして働きに行くも 主にプロポーズされた途端
自刃・・・
そんな中でも仕官国での地位は 知らず知らずのうちに
高くなり
けれど 独立寸前の弱小国の日常は 決して平和ではなく

いつの間にか 同盟国の役職者に 嫁す事に決まっていた
とはいっても相手は未だ 10歳ほどの子供だったため
形式上の結婚ではあったが
それでもいい・・・と思った
どうせ自分の愛する相手は 自分を愛する相手は
破滅に向かうのだから・・・
『名ばかり』なくらいが ちょうどいい

夫は子供っぽくて よく甘えて拗ねて 膝枕で転がるのが
好きだった
そして子供である以上 移り気で人なつっこくて
彼以外の『嫁』をよく作って来た
彼もやはり この夫に嫁いだ時のように 政策上の理由で
何度か夫を持つようになり
その殆どがその場限りの 意味をなさない契約であったが
幾つかはその後もしばらく 有効となっていたらしい


やがて 価値観も麻痺して行き
自らの身さえも 政治のための道具だと 認識し始めた頃
とある傷心の少年を拾うこととなった
彼は惜しみの無い愛を望んでいた
けれど・・・ 自分が愛した相手は・・・ いつも・・・
しかし少年があまりにも 自棄を起こそうとするので
側に居る事を選択した

結果は・・・

少年も『壊れた』らしい
壊したのは多分 自分・・・なのだろう・・・
少年の側に居る事を約束しながら その身は主に執務室へと
置いていた
無人の部屋に座り込む彼は 何を考えていたのだろう
やがて淋しさ余って 彼が他者を誘い込んだ時
自分は火のように怒るでなく 冷やかに別れをほのめかした
あの時の絶望的な顔・・・
その身を抱いていても 目は別の相手を見て居た事
死をもって 自らから逃げ出した少女を 見て居た事を
彼は知っていた

かといって その時には既にもう あの少女に対しての
『愛』は無かった
あったのは ・・・愛が変化して 変質して・・・歪んで
その末に出来た『憎悪』のみ
心には深い絶望と 憎悪しかなかった・・・


そう・・・愛する相手から そんな仕打ちを受ければ
誰だって自我を 確立し切る事など 出来ないだろう
彼を自棄にさせて 精神と肉体を乖離させ
壊したのは自分だ・・・

こんな生命は要らない・・・
なのに 消える事が出来ないのは 何故?
自らに封じられた『竜』が発動した時も・・・
里からの追っ手によって それを分離させられて
『人』としての 肉体を失った時も・・・
消えることは出来なかった

・・・何故? 何が足りないというのか?
この魂が『昇華』されるためには 何が足りない・・・?
それともこの『身』が 魔の血を受けるこの『身』が
簡単に消えることを 許してくれないのか・・・??

そこまでの記憶が流れ込んで来た時
オレの瞳は とめどない涙を流していた
最初は流れてゆく映像を 眺めているだけだった
やがて その記憶や経験は 俺の心に染み込み
同じ経験を しているかのように オレを取り込んで・・・


「・・・っぁ ソル・・・っ・・・」

封じられた竜を 内包しながらの生で あったとしても
きっかけさえなければ 彼は安穏と暮らす事が出来たのだろう
あいつにとっての『初めての恋人』
聾唖の少女が死んだ時から 彼は少しずつ狂っていった
・・・もし
もし・・・オレにとっての『初めての恋人』・・・
ソルが同じように オレの目の前で 自殺を遂げたとしたら
オレは・・・ オレも・・・ ・・・わからない

見るとアイツの方も 同じように自らの肩を抱いて
俯いて何かに 耐えるような表情を 見せて居た
きっと・・・オレの『過去』を 体験しているのだろう・・・
さっきまでのオレと同じように・・・
寄り添われただけで 硬直して怯えるような
アイツにはちょっとばかし キツいかも知れないけど
それでなくとも 意識の中にダイレクトに 他人の記憶が
流れ込んで来るのは 決して心地の良いものじゃない
まだ・・・ 頭がガンガンクラクラする・・・


やがてアイツも顔を上げ 汗の珠の浮いた額を軽く拭う
倭服の裾を整え 息をついてこちらを見る

「・・・分かった?」
オレの問い掛けに 彼はコクリと頷く
「つまりオレの中に 入るってコトは その記憶と過去を・・・
共有するってコトになる
勿論 アンタの過去や記憶も オレは共有する」
まだ軽く上がったままの 息を整えながら彼は頷いた
「やめるなら今のうちだよ
・・・まぁ最も その他にアンタが『消滅出来る』方法が
あるってんならね
今のところ他の方法なんて 見当たらないんだろう?」
「・・・・・・」
影・・・いや 今は記憶を共有したせいか はっきりとした姿を
現すようになった彼が 歯切れの悪い笑みを見せる
「なら 仕方ないじゃないか・・・
来いよ・・・オレの中に ・・・オレに一部になって
いつか溶け込んで・・・消え失せるまで・・・
ここに居たらいいだろう?」
言って 軽く口を尖らせ 睨み付ける
「言っとくが オレだって不本意 なんだからなっ」


『彼』が承諾したのだろう・・・
暖かい体温のような 包まれる感覚の後・・・
その姿は見えなくなり かわりに言葉にもならない 思考のような
ものが オレの精神に直接 語り掛けて来た
『済みません・・・ね・・・』
「・・・謝る必要はないよ アンタだってどうしようも
無いんだろう?」
許容の意を表したつもりだったが 少しつっけんどんだったかも
知れない

「ただ・・・
分かってると思うけど オレは一人で暮らしてる 訳じゃない
いくつかは 守ってほしい約束が あるんだ」
『はい?』
柔らかな思念が相槌をうつ
「一つは・・・ 別にオレの『躰』を使ってもいいから
出来れば周囲にあまり 怪しまれないように して欲しいんだ
つまりは出来るだけ オレの普段の言動に近く振舞って
欲しいんだけど・・・」
『はい それは当然のことです』
軽い微笑みの気配がする

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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