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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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(上品な便箋にしたためられた流麗な筆致)

これを読んでいるということは、貴方たちは無事に成人を向かえることが出来た、ということかしら。
それともこのお手紙を手渡した方がお約束を破って、その前に貴方達に見せてしまったのかしら?

どちらにしても今はもう私たち、私と・・・貴方の父であるレオンは、もうこの世のどこを探しても、存在しないことかと思います。
ごめんなさいね。貴方たちには多分、新天地を探すためのたびに出たと、伝えられていたのでしょうね。
私たちも貴方たちのお世話を直接してくださる方、・・・サリア様とサーシャ様にはそうお伝えしました。

けれどごめんなさい。本当は私たちは私たちの心が赴くままに、消え行く世界と運命を共にすることに決めたのです。


貴方たちのお父様はとても賢く強く素敵な方でした。
けれどそれがゆえに深く世界に絶望し、それでもこの世界を愛している方でした。
私は、本当を言うとお父様ともっと長らえて、貴方たちの成長を眺めていたかった。
けれど・・・。お父様のいない世界では、私は生きていくことが、出来ないと思います。
貴方たちのことは勿論愛しいけれど、でも、それ以前に母様が愛しているのは、お父様なの。

こういうと、貴方たちは親に捨てられた、と。自分たちは要らない存在だったんだ、などと・・・思うのかしら?
けれど、イエスかノーかと単純には、判断しないで欲しいのです。
世界が終焉を迎えるというアクシデントさえなければ、私たちはきっと貴方たちと・・・共に暮らしていたことでしょう。

私たちの家族や友達、知っている人たちの殆どは、他に住める世界を探して、旅立って行きました。
ただどうしても私たち夫婦には、この世界を離れる選択肢が選べなかった。
でも貴方たちはどんな未来も選べる幼い存在で、また・・・生や死を自分で選べる年齢ではなかったから、
共に連れて行くわけにはいかないと思ったの。

きちんと育てて下さる方を、私たちは一生懸命探しました。
見つけたのは私ですけれど(元々サーシャ様は私や貴方たちのお祖母様も、お育てになった方なのですよ)、
貴方たちを不自由なく育てていただけるように、ポリシーさえも曲げて尽力して下さったのは、お父様なのですよ。

それでも、無責任だ勝手だと怒るなら、その非難は受けましょう。
けれど自分たちが不必要な存在だったのかと、そんな哀しい誤解だけは持たないで欲しいのです。

母様は元々、子供を産める身体では、ありませんでした。
お父様がお医者様で、母様の体質に本気で向き合ってくださったからこそ、可愛い貴方たちを授かることが出来たのです。
貴方たちは強く必要とされ望まれ、不可能を可能にして産まれた存在。
5月5日、貴方たちが初めて元気な姿を見せてくれた日は、私達は二人とも嬉しくて朝まで眠れませんでした。

そう、母様はお父様のことを、世界で一番価値のある存在だと、思っています。
お父様も母様のことをそう思って下さっているでしょう。
だから、そんな私たちの血を受け継ぐ貴方たちが、価値のない存在である訳がないのです。、

ただ。貴方たちは確かに愛しくて大切な存在だけれど、それもお父様への強い愛があればこそ。
叱られてしまうとは思いますが、貴方たちへの気持ちを越えてなお余りある感情が、
私の場合はお父様への愛や想いや独占欲であったというだけのお話。
それを全うするためにこの命を、燃やすことに決めたに過ぎないのです。

お父様もきっとそうなのでしょう。
あの方は、世界を離れることは出来なかったけれど、先立つことで母様がいつかお父様を忘れ。
誰か別の方のものになる可能性が、少しでもあると我慢ならない、と。
ですからお父様は、母様に言ったのだと思います、共に死のうと。

・・・それもまた愛が故なのです。一般的に褒められる形では、ないのかもしれませんが。

私たちは貴方がたを勿論愛しているけれど、それ以前に私たちがだれにもまけないくらい強く愛し合ったから、
そもそも貴方たちが生まれたのです。
そしてこの愛に準じる生き方しか、私たち夫婦には・・・出来なかったのです。

これを読んで、それは詭弁だ、言い訳だと。
それでも子を捨てた無責任な親に、変わりがないではないかと、思うならば。

貴方たちは、自分を見放さない人を自分自身で見付け、その手で捕まえなさい。
私たち夫婦がお互いを、星の数ほどの男女の仲から、見つけ出したように。
そして貴方たちも決して、自分が見つけた相手だけは、裏切らないように・・・。

そうすればきっと私たちが手にしたような、いいえ、ひょっとすればそれ以上の幸せを見つけられるでしょう。
生まれてきて良かった、生まれた意味があった。私たちが到達した答えを、きっと貴方たちも手に入れられうと信じています。
だって私たちの子ですものね。

貴方たちが幸せになれたならば、それが私たちが貴方がた二人を、生み出した意味になるのです。
身勝手な親と思うかも知れないけれど、私たちはとてもとても幸せでしたし、二人が生きて愛し合った証として、
貴方たちを産み出せたことを心から誇りに思っています。

成人おめでとう。これからも元気に強く、育っていってくださいね。
父も母も本当に心から、貴方達を愛しています。

母様からのメッセージはおしまい。
お父様にも、一筆したためて下さいなと頼んだのですが、妙なこだわりがあるのかどうなのか、
『もの言わず去るのが男の美学だ』なんてつれないことを仰るのです。
けれどきっと私と同じことを、考えていらっしゃるのでしょう。そういうところ素直じゃない方なのですよ(苦笑)。

ですからお父様からは、貴方たちに残したい書物をご用意していただくことに、なりました。
お父様が心を込めて選んだご本です。きっと貴方たちの人生の糧になることでしょう。

さてと、あとはそうですね、無粋ですけれど成人してきっと、里を巣立っていくのだろう、貴方たちへ。
母様もかつてはとあるお国に仕えて働いていて、それなりに人脈を作ったこともあるのですよ。
ですから、貴方たちがもし行き先に迷ったり困ったりしたなら、訪ねればいいと思う方たちのお名前を挙げておきますね。
中の何人かはもう既に貴方たちも知っているかも知れませんが。
(会いに行くと約束して下さった方もいますので・・・)

(以下、家族・友人・知人の名前と、分かる限りの居場所が連ねられている)

それでは。

リンネちゃん。
きっと立派なレディになった貴女と、女同士のお話が出来なかったこと、母様は少しだけ心残りに思っています。
幼い頃の貴女は本当にお父様にそっくりで、お父様はそれをとても哀れんでいたけれど、母様はきっと美人になると思ったのです。
聡くて活発で人なつっこかった貴女は、どんな素敵な女性になったのかしら。
・・・幸せになって下さいね。

アルクちゃん。
貴方は逆に私にそっくりでした。
お父様は『美しくなるぞ』と上機嫌でしたけれど、私は男の子なのになぁ・・・と少し、心配になったりもしていました。
けれど性質は私と違ってどこか落ち着いていて思慮深くて、ちゃんとお父様に似ているのだなと嬉しく思いました。
リンネちゃんが大好きだった貴方だから、きっとお姉ちゃんを助けてあげる、優しくて頼り甲斐のある男性に、育ったのでしょうね。

二人とも。本当に心から、愛していますよ。

 

                                                                              伽藺・クイン・ベルアウム

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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