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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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川縁に座って水面を見ていると、祖母が「何を考えているの?」と、声を掛けて来た。
僕は、なるべくゆったりとした動きで振り向くと、何も考えてはいませんよ・・・と微笑んだ。
するとそれと、ほぼ同じゆったりとしたテンポで祖母が、「そう?」と隣に腰を下ろす。

・・・本当は何も、考えてなくなんか、なかった。
ずっとずっと、川の流れを見つめながら、思っていたんだ。
どうして僕はここにいるのか・・・。
どうして・・・生き残ってしまったのだろう・・・。


確か、この世界全てを憎んでしまいそうなほど、哀しいことがあって。
そうしてしまいそうな自分が嫌になって。
大事なものを壊してしまう、愛する人を殺してしまう、そんな自分なんて・・・。
消えてしまえばいいと・・・願ったはずだったんだ。

今までに幾度か、自ら命を断とうとしたことが、あった。
しかし、身に帯びた龍の呪力は、その傷口をたちどころに塞ぎ。
・・・けれど、龍の呪いを浄化されたらしい今なら、もう消えることが出来るだろう。
そう・・・思った、はずだったのだ。

目覚めた時、目前にいたのは、祖母と式神の狐と、蒼い翼を持つ少年。
彼らが分割して魂を保護し、肉体を保護し、生きろと願ったから。
自分は・・・再び、この地を踏むことに、なった・・・らしい。

でも、かといって。
どうすればいいのか・・・、どこかに行く・・・気力はない。
郷里からはとっくに縁を切られている。
祖国には・・・、今更・・・どの面を下げて戻れようか。
旧知の友にだって出会ったところで・・・、謝ることくらいしか出来るとは思えない。
心配も迷惑も・・・沢山掛けた筈なんだ・・・。

「眉間に皺・・・。考え過ぎで怖いお顔に、なっているわよ」

祖母がころころと笑って額をつつく。
血縁的には確かに、自分の祖母に当たる女性だが、妖と呼ばれる存在だからだろうか。
外見は随分と、若い・・・というか、いっそ幼い。
柳の樹の妖なので普段は、樹の中におさまって眠っている。
けれど、基本的には話好きな性格らしく、度々こうやって出てきては、
他愛の無い話を仕掛けて来るのだ。

「今日は、どうされたのですか、お祖母様。お昼寝にも飽きられましたか?」
「あらひどいわね。素敵なものを持って来て、あげたというのに・・・」

つん、と唇を尖らせて。拗ねた振りをする祖母。
こうしていると本当に幼い娘のようだ。

「素敵な・・・もの?」
「ええそうよ。今朝方、小鳥さんが運んで来てくれた、貴方へのお手紙よ」
「え・・・」

手紙、なんて・・・。貰う心当たりは無かった。
そもそも、自分が今ここに居る事を、知っている者などほぼ居ない。

「誰から・・・」

受け取って裏面を見ると、見知った名前・・・例の蒼い鳥の名前があった。

「・・・何だろう、今になって」

『彼』とは、魂の一部が数年間、同じ体で同居していた間柄だ。
しかしそれが解消された今となっては、わざわざ連絡を取ってくる理由も無いと思う。

「なに・・・、拝・・・啓・・・」

『拝啓、元気してるー?

アンタのことだから、せっかく無事に生き返ったっていうのに、また鬱々と
悩み込んでるんだと思う

でもまぁ、しょーがないよ
今そこでそーやって、生きて動いちゃってるんだもん
嫌でも辛くてもしんどくても、生きて行くしかないよね』

勝手な言い分だな・・と思うが、確かに・・・その通りだ。
さらに読み進める。

『・・・とはいえ、アンタみたいなタイプはさ、常に何かやってないとっていうか
何かに追われてないと、生き甲斐を見失ってしまうんだと、思う
だから、オレがいい仕事、見つけて来てやったよ』

え? と・・・さらに眉間に、皺が寄る。
何か、こう、胸騒ぎ・・・。あまり宜しくない予感・・・。

『実はこの前偶然、知った人に会っちゃってさ
その人、今はとある国で仕事してるんだよね、軍務さんらしーよ?
んで忙しそうだから手伝いたいんだけど、オレ・・・もう向こうの大陸に帰るから』

・・・まさか、とは思いつつ。便箋を・・・めくる。

『アンタやんなよ!!
軍務と内務は確か、経験あったはずだよね?
どーせ、抜け殻みたいになってるんだろーから、いい刺激になると思うよ
ボケ防止、ボケ防止。鬱にも効くよきっと』

それ以上を読む気力が、この時点でかなり、失われていたのだが。
手紙もあとは、一言二言の挨拶文句で、締め括られていた。
ふらふらと立ち上がり、数歩歩いて・・・、柳の樹にもたれる。

経験あったはずだよね・・・、じゃ・・・なくて。
かつて・・・は、とても必死に、とても真剣に、『国』と向き合っていて。
それゆえに・・・あの頃の記憶は、今でも僕を・・・苛む・・・。

彼には悪いけれど、お断りの手紙を出そう。そう考えた瞬間。
祖母が手を覆うように重ねて来て、首をふるふると横に振った。

「行って来なさい。そして・・・、見て来るといいわ
貴方は、辛いことが沢山あって、挫けてしまったけれど
本当はとても寂しがり屋だし、誰かのお手伝いをするのが、大好きな子のはずよ?」
「・・・・・・」
「どうせだから、祖国とやらも、覗いてみなさい
きっともう時間が経ち過ぎて、誰も貴方のことなんか、覚えてないわよ」

べーっと、悪戯っぽく舌を出して、祖母が続ける

「だから・・・
貴方を責める人も、きっともう・・・いないと思うわ
知ってる? もう5年も経っているのよ。いえ・・・6年になるかしら」
「・・・・・・・・・」

確かに・・・そうかも知れない。
このままここで、無為に無為に祖母と共に、一介の樹妖として風に吹かれて生きる。
それでいいと思えるほどに、自分は落ち着いては、いないかも知れない。
そして・・・、この罪悪感を抱え続けて生きることにも、また・・・。

「さ、心が決まったなら旅の支度を、なさい」
「・・・はい」

祖母に追い立てられるように、柳の側にしつらえた掘っ立て小屋に、潜り込む。
旅・・・、何年ぶりなのか。僕は無事に・・・歩けるのだろうか?


「ふぅ、追い出し成功っ☆ これでまたここには、私一人に・・・なるわね
あっ二人かなぁ。白ちゃんは残ってくれるわよねぇ」

抱き上げて頬擦りをされ、気持ち良さそうに目を細めるものの、彼女の様子に
かすかな違和感を感じ、九尾の狐・白天狗は小さく問い掛けた。

「柳伽サマ・・・どうしたでありますルか?
ご主人サマを追い出す理由が、何かありましたのですルか??」
「や~ん、今日からは私が、ご主人様なんだからっ! そう言ってくれなくちゃ嫌!!」

ふざけて狐の鼻先に唇を当てると、柳伽と呼ばれた樹妖は声を潜めて、静かに告げた。

「・・・多分ね・・・そろそろ来るのよ
郷里の者たちが、今期の『生贄』を探しに、ね
里長の直系ながら里に縁を切られて、今は半分どころかほぼ妖で・・・
これ以上ないのよね・・・、条件と・・・しては」

狐を川縁に下ろすと、彼女は低く呟いた。

「私だって『蛇柳』の端くれだもの、自分の孫に化けるなんて、軽い軽い♪
それに・・・あんな古いだけのしきたり、意味があるとは到底思えないもの
私自身は・・・生贄になったとしても、この世代で辞めさせてみせるわ
・・・だから白ちゃん、少しの間だけ・・・、協力してね?」

決意の欠片も、うかがわせないような、可憐な微笑みを浮かべ
少女の姿の樹妖は、自らの血を引く孫に、聞こえないだろう小声で言った。

「お婆ちゃんは少し先に、お爺ちゃんのところに行くかも、知れないけど
淋しがっちゃ駄目よ、男の子なんだから・・・
・・・いい? 今度こそは後悔なんてしない、いい人生を送るのよ・・・??」
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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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