うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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ぱたん、と。本が閉じられる
「遅い」
医師の鼻筋に皺が寄る。
数刻前とは打って変わって、あからさまに機嫌を損ねていた。
外はすっかり暗くなっている。
「遅い」
医師の鼻筋に皺が寄る。
数刻前とは打って変わって、あからさまに機嫌を損ねていた。
外はすっかり暗くなっている。
◆
「逃げたのではないだろうな・・・」
もし本気で伽藺が、医師の元から逃げることを考えていたなら、
先ほど彼が寝ていた間に、逃げていただろう。
冷静に考えればそう判断できても、怒りの感情はそういった理性や、
賢明さを欠如させる。
一度そう考えると、上機嫌に任せて獲物を簡単に外に出した、
己の軽率さえ腹立たしく思えて来た。
それだけ彼は、『怒り』という感情に耐性が無く、短気だった。
医師の苛付きがピークに達しそうな頃合い。
玄関から騒々しい音がして、廊下を駆け抜ける人影があった。
「待て」
褐色の手が、尻尾のように踊る深緑の後ろ髪を、捕まえた。
走っていたところを、後ろに強く引っ張ったため、
伽藺の身体は、そのままずるりと、床の絨毯へとへと倒れ込む。
体勢を整える暇も無ければ、それだけの平衡感覚も敏捷性も、
この樹妖は持ち合わせていなかった。
完全に、背中が床に着地しことを確認すると、医師は、
コートを羽織ったままの肩を、体重を掛けて踏み付けた。
それだけでこの華奢な体は、完全に身動きが封じられる。
「早く帰れ、と、言ったはずだ。
一体何時間かかっている。どこをほっつき歩いていた?」
晩秋の外気で冷えた肩に、ぐりぐりと靴の固さが押し込まれる。
戻って来たと安堵はしたものの、堪った苛々はぶつけてしまわねば、
気が済まない。
ちら、と散乱した買い物袋の中身を、見遣る。
調味料と食材。いくばくかの衣服。その他に・・・。
食材の一種なのだろうか?
正体のわからない包みが、いくつか見当たった。
「やけに大量に買ったものだ。調味料にしては、多い、多過ぎる。
買って来たのは、誰の金だ? ・・・俺の金だな。
それを断りもせず、隠すようにさっさと持っていくとは、
どういうことだ?」
冷たく言い放ちながら、靴先で細く尖った顎を蹴る。
線の細い眉と唇が痛みに歪み、口内に血の味が広がった。
「貴様は礼儀がなってない。・・・調教が必要のようだな?」
しかし、暴行と言えるのかも知れない、医師の叱責は、
その場では比較的速やかに終了した。
大股で立ち去る背中を、柳葉を垂らしつつ見送った。
謝罪を述べようにも、蹴られた拍子に口の中は、切っていたし。
そもそも謝罪は嫌いだと、彼自身が最初に述べていた。
ならば許しを乞う方法は一つ。
散らばった食材を拾い小さく呟く。
「だって、これ、本当に。美味しいんです、・・・から」
◆
この人物と過ごして、まだたったの、一日程度なのだが。
胸の中には確実に、何らかの感情が育っていることに、
伽藺は気が付いていた。
『恐怖』ではない。
彼が、次々と繰り出して来る暴虐が、恐ろしくない訳でも、
無いのだけれど。
彼が求めているのであろう、『畏怖』・・・でもない。
畏怖の対象とするには、何だろう、この人物は天衣無縫だ。
では、かつて『あの子』に感じていたような、『保護欲』?
・・・まさか。
自分などが保護するまでもなく、この人物は生きて行けるだろう。
他者の領分までを侵略しつつ。
そう、そのどれも違う。上手く言葉が見つからないけれど。
力関係を主張したと思ったら、睡眠欲に任せて倒れ込む。
かと思えば、上機嫌で食事をかっ込み、待たせれば激昂する。
これじゃあなんだか、何だか、人というよりも・・・。
◆
夕食の支度は、手早く暖かく。
馴染んだ食材さえあれば、伽藺もそれなりに手が遅い方では、
無かった。
ほっくりと、柔らかく煮たジャガイモと、風味の豊かな牛肉。
人参といんげん豆で、彩りも鮮やかな肉じゃが。
豆腐と大根の味噌汁は、かつお一番出汁がいい香り。
浅漬けの白菜には軽く柚子を刻み。
米は軽く酒を混ぜて、土鍋でふわりと炊いた。
こうして炊くと、風味と甘さ、艶が増す。
あとは炙り焼きの椎茸に、少量のぽん酢を添えて・・・。
よほど、倭食と相性が悪くない限り、この食卓に文句を、
付けることは無いだろう。
盆に盛り付けると、ワゴンで廊下を進み、医師の自室に向かい、
二度、はっきりとしたノックを、響かせた。
部屋に入ると、なるべく殊勝な表情で、アッシュ医師に告げた。
「お買い物が多くなってしまってすみません。
なるべく美味しくて、栄養のあるものを、食べていただきたくて」
それだけを告げると、ワゴンを置いて退室の礼をする。
次は食後の『あれ』だ。
タイミング良く出すためにも、早く拵えなければ・・・。
「ほう」
書き散らしたカルテに再び、目を通すアッシュ医師の表情からは、
もう不機嫌さというものが消えていた。
というか、不機嫌だったこと自体、どうでもよくなっていたようだ。
それより目前に広げられた、珍しい献立の数々に、期待を膨らませる。
「和食というものは、友人に連れられて何度か定食屋などで、
食ったことがあったが。
まさか、自宅で食えるとは、思わなかった」
目の前に配膳された食事からは、
温かくて美味しそうな湯気がたち上っている。
匂いは、食材の風味を損ねることなく、柔らかに漂っている。
何度か嗅いでいるので知っている。
これは『醤油』と『味醂』、それから魚の出汁の匂いだ。
アッシュは通常、薬品や書物の多いこの自室では、
好んで食事を摂らないことにしていた。
そのため、リビングではなく自室に持ってきたことに対して、
まずケチをつけようかと思ったが、この食膳をひっくり返すのは、
少々惜しいように思い。
だから今回は、何も言わないでおくことに、した。
先程の不機嫌は、発散されたことにより、落ち着きを戻していた。
何より獲物は無事に、手元に帰ってきたのだから。
そう考えると、もう少しこの獲物の顔を、眺めたい気分になった。
放し飼いにしても逃げず、清潔な住居と悪くはない食卓を用意する、
怯えて縮こまるのではなく、積極的に話し掛けて来ようともする。
医師は、煩いのは好きではなかったが、懐かれて不快になるほどの、
ひねくれ者でもなかった。
(これは良い拾い物だったろうか)
そう思うと、緊張感のなさを全身で体現したような、この獲物にも、
愛着のような感情が沸いて来る。
「・・・もう行くのか?
どうせすることもないのだろう、食事中の話し相手にでもなれ」
食後の用意を、しに行くなどとは思いもせず、
部屋を去ろうとする伽藺を引き留めた。
少し困った顔をしたようだが、部屋にある椅子の一つに座ったので、
それ以上はアッシュも何も言わなかった。
別に、実験動物の感情がどう動こうが、彼は気にしない。
それどころか、困り顔をするのや、苦しむ様子を見るのは、
むしろ好ましいところだ。
◆
少々慣れない手つきながらも『箸』に手を伸ばす。
一応は不便なく扱えるらしく、 ジャガイモを摘んで口に運ぶ。
「ふむ、出汁がよく染みている。これは何という料理だ?」
これは何だ、これは何だ、と聞きながら、興味深げに食していく。
特別、料理が得意という訳ではない伽藺でも、
やはり、嬉しそうに食べて貰うと、嬉しくなってしまう。
しかも色々と、尋ねて来るものだから、教えたくもなる。
「お肉とジャガイモを、煮込んであるから、
肉じゃがと呼ばれるのです。
ムロマチでは、家庭料理とされてますが、その歴史は浅くて、
元は限られた倭の調味料で、ビーフシチューを作ろうとしたのが、
始まりなんだそうですよ」
そこから始まって、味噌が大豆から出来ていることとか、
浅漬けだけではない、漬物の種類のことなども、話した。
「なるほど。よくものを知っているじゃないか。
料理の仕方に、興味がある訳ではないが、博識な奴は嫌いじゃない。
話し相手としては、合格といっていい」
ぽん、とアッシュが伽藺の頭に手を置き、ぐりぐりと撫でる。
一応は褒めているようだった。
それを受けて伽藺も少し笑顔を見せる。
「ビーフシチューの作り方は、良く存じ上げませんが、
王宮付属の図書館に、料理の本がありましたから、
調べて今度お作りしますね。
和食ばかりでは・・・、飽きが来ますでしょうし・・・」
『今度』の話をして、自分が逃げるつもりは無いことを、
伽藺は暗に示してみた。
その言外の含みに、気が付いたのか、付いていないのか。
少し考えたように箸を止め、緑の樹妖に言い付けた。
「そうだな、明日にはチェスに、付き合え。
軍務に斡旋されるくらいだ、戦略ゲームは苦手ではなかろう」
その誘いは、話し相手になる、と判断されたためだった。
そうでなかったら、やはりこの先も昨日のまま、道具としてしか、
扱いはしないだろう。
天上天下唯我独尊、天は俺の上に人を作らず、を信条とする、
アッシュにとって。
人を、自分の上だったり同等にみるということは、勿論ないとしても、
対象とするその人物に、知恵があると認められれば、
話し相手として、自分と同列に近い位置で、接しようと思える。
『人なつっこい』部分など、勿論彼には欠片も無かったが、
知識欲だけは人一倍あり、また、軽い冗談を交えた会話を愉しむ術も、
知らないわけでは無かった。
「チェス・・・ですか・・・?」
軍人将棋の一種であることは、伽藺も知ってはいるが、
実際にやったことは無い。
「そうですね、教えていただけるなら、喜んで」
『将棋』ならば知っている。郷里では弟を相手に、よく遊んだものだ。
伽藺は、特別強い方でもないが、弱い方でもない。
兵士たちの士気を操ることや、将の判断を狂わせることは得意ではあるが、
駒を効率的に運ぶ方法に、長けているわけではない。
それが、属性『幻』たる所以である。精神のない相手には効かない。
寧ろその技能が高いのは弟の方であった。
彼は駒を『勢力』と見なし、そのルーチンを理解して、捕らえる。
駒に個々の個性は必要とせず、ただ戦力と移動力のみを、問題とする。
伽藺はそんな弟から、王手をたまにしか、取ることは出来なかった。
しかし逆に考えるとすれば、戦略ゲームに長けた相手と、
長く遊んでいたおかげで、それなりの技術は身に付いていると、言える。
ごく普通の、『将棋好き』程度の相手とならば、
いい勝負を展開することが出来るだろう。
もっとも、チェスというゲームについては、全くの未経験なので、
最初はアッシュ医師について、覚えるだけで精一杯になるのだろうが。
「逃げたのではないだろうな・・・」
もし本気で伽藺が、医師の元から逃げることを考えていたなら、
先ほど彼が寝ていた間に、逃げていただろう。
冷静に考えればそう判断できても、怒りの感情はそういった理性や、
賢明さを欠如させる。
一度そう考えると、上機嫌に任せて獲物を簡単に外に出した、
己の軽率さえ腹立たしく思えて来た。
それだけ彼は、『怒り』という感情に耐性が無く、短気だった。
医師の苛付きがピークに達しそうな頃合い。
玄関から騒々しい音がして、廊下を駆け抜ける人影があった。
「待て」
褐色の手が、尻尾のように踊る深緑の後ろ髪を、捕まえた。
走っていたところを、後ろに強く引っ張ったため、
伽藺の身体は、そのままずるりと、床の絨毯へとへと倒れ込む。
体勢を整える暇も無ければ、それだけの平衡感覚も敏捷性も、
この樹妖は持ち合わせていなかった。
完全に、背中が床に着地しことを確認すると、医師は、
コートを羽織ったままの肩を、体重を掛けて踏み付けた。
それだけでこの華奢な体は、完全に身動きが封じられる。
「早く帰れ、と、言ったはずだ。
一体何時間かかっている。どこをほっつき歩いていた?」
晩秋の外気で冷えた肩に、ぐりぐりと靴の固さが押し込まれる。
戻って来たと安堵はしたものの、堪った苛々はぶつけてしまわねば、
気が済まない。
ちら、と散乱した買い物袋の中身を、見遣る。
調味料と食材。いくばくかの衣服。その他に・・・。
食材の一種なのだろうか?
正体のわからない包みが、いくつか見当たった。
「やけに大量に買ったものだ。調味料にしては、多い、多過ぎる。
買って来たのは、誰の金だ? ・・・俺の金だな。
それを断りもせず、隠すようにさっさと持っていくとは、
どういうことだ?」
冷たく言い放ちながら、靴先で細く尖った顎を蹴る。
線の細い眉と唇が痛みに歪み、口内に血の味が広がった。
「貴様は礼儀がなってない。・・・調教が必要のようだな?」
しかし、暴行と言えるのかも知れない、医師の叱責は、
その場では比較的速やかに終了した。
大股で立ち去る背中を、柳葉を垂らしつつ見送った。
謝罪を述べようにも、蹴られた拍子に口の中は、切っていたし。
そもそも謝罪は嫌いだと、彼自身が最初に述べていた。
ならば許しを乞う方法は一つ。
散らばった食材を拾い小さく呟く。
「だって、これ、本当に。美味しいんです、・・・から」
◆
この人物と過ごして、まだたったの、一日程度なのだが。
胸の中には確実に、何らかの感情が育っていることに、
伽藺は気が付いていた。
『恐怖』ではない。
彼が、次々と繰り出して来る暴虐が、恐ろしくない訳でも、
無いのだけれど。
彼が求めているのであろう、『畏怖』・・・でもない。
畏怖の対象とするには、何だろう、この人物は天衣無縫だ。
では、かつて『あの子』に感じていたような、『保護欲』?
・・・まさか。
自分などが保護するまでもなく、この人物は生きて行けるだろう。
他者の領分までを侵略しつつ。
そう、そのどれも違う。上手く言葉が見つからないけれど。
力関係を主張したと思ったら、睡眠欲に任せて倒れ込む。
かと思えば、上機嫌で食事をかっ込み、待たせれば激昂する。
これじゃあなんだか、何だか、人というよりも・・・。
◆
夕食の支度は、手早く暖かく。
馴染んだ食材さえあれば、伽藺もそれなりに手が遅い方では、
無かった。
ほっくりと、柔らかく煮たジャガイモと、風味の豊かな牛肉。
人参といんげん豆で、彩りも鮮やかな肉じゃが。
豆腐と大根の味噌汁は、かつお一番出汁がいい香り。
浅漬けの白菜には軽く柚子を刻み。
米は軽く酒を混ぜて、土鍋でふわりと炊いた。
こうして炊くと、風味と甘さ、艶が増す。
あとは炙り焼きの椎茸に、少量のぽん酢を添えて・・・。
よほど、倭食と相性が悪くない限り、この食卓に文句を、
付けることは無いだろう。
盆に盛り付けると、ワゴンで廊下を進み、医師の自室に向かい、
二度、はっきりとしたノックを、響かせた。
部屋に入ると、なるべく殊勝な表情で、アッシュ医師に告げた。
「お買い物が多くなってしまってすみません。
なるべく美味しくて、栄養のあるものを、食べていただきたくて」
それだけを告げると、ワゴンを置いて退室の礼をする。
次は食後の『あれ』だ。
タイミング良く出すためにも、早く拵えなければ・・・。
「ほう」
書き散らしたカルテに再び、目を通すアッシュ医師の表情からは、
もう不機嫌さというものが消えていた。
というか、不機嫌だったこと自体、どうでもよくなっていたようだ。
それより目前に広げられた、珍しい献立の数々に、期待を膨らませる。
「和食というものは、友人に連れられて何度か定食屋などで、
食ったことがあったが。
まさか、自宅で食えるとは、思わなかった」
目の前に配膳された食事からは、
温かくて美味しそうな湯気がたち上っている。
匂いは、食材の風味を損ねることなく、柔らかに漂っている。
何度か嗅いでいるので知っている。
これは『醤油』と『味醂』、それから魚の出汁の匂いだ。
アッシュは通常、薬品や書物の多いこの自室では、
好んで食事を摂らないことにしていた。
そのため、リビングではなく自室に持ってきたことに対して、
まずケチをつけようかと思ったが、この食膳をひっくり返すのは、
少々惜しいように思い。
だから今回は、何も言わないでおくことに、した。
先程の不機嫌は、発散されたことにより、落ち着きを戻していた。
何より獲物は無事に、手元に帰ってきたのだから。
そう考えると、もう少しこの獲物の顔を、眺めたい気分になった。
放し飼いにしても逃げず、清潔な住居と悪くはない食卓を用意する、
怯えて縮こまるのではなく、積極的に話し掛けて来ようともする。
医師は、煩いのは好きではなかったが、懐かれて不快になるほどの、
ひねくれ者でもなかった。
(これは良い拾い物だったろうか)
そう思うと、緊張感のなさを全身で体現したような、この獲物にも、
愛着のような感情が沸いて来る。
「・・・もう行くのか?
どうせすることもないのだろう、食事中の話し相手にでもなれ」
食後の用意を、しに行くなどとは思いもせず、
部屋を去ろうとする伽藺を引き留めた。
少し困った顔をしたようだが、部屋にある椅子の一つに座ったので、
それ以上はアッシュも何も言わなかった。
別に、実験動物の感情がどう動こうが、彼は気にしない。
それどころか、困り顔をするのや、苦しむ様子を見るのは、
むしろ好ましいところだ。
◆
少々慣れない手つきながらも『箸』に手を伸ばす。
一応は不便なく扱えるらしく、 ジャガイモを摘んで口に運ぶ。
「ふむ、出汁がよく染みている。これは何という料理だ?」
これは何だ、これは何だ、と聞きながら、興味深げに食していく。
特別、料理が得意という訳ではない伽藺でも、
やはり、嬉しそうに食べて貰うと、嬉しくなってしまう。
しかも色々と、尋ねて来るものだから、教えたくもなる。
「お肉とジャガイモを、煮込んであるから、
肉じゃがと呼ばれるのです。
ムロマチでは、家庭料理とされてますが、その歴史は浅くて、
元は限られた倭の調味料で、ビーフシチューを作ろうとしたのが、
始まりなんだそうですよ」
そこから始まって、味噌が大豆から出来ていることとか、
浅漬けだけではない、漬物の種類のことなども、話した。
「なるほど。よくものを知っているじゃないか。
料理の仕方に、興味がある訳ではないが、博識な奴は嫌いじゃない。
話し相手としては、合格といっていい」
ぽん、とアッシュが伽藺の頭に手を置き、ぐりぐりと撫でる。
一応は褒めているようだった。
それを受けて伽藺も少し笑顔を見せる。
「ビーフシチューの作り方は、良く存じ上げませんが、
王宮付属の図書館に、料理の本がありましたから、
調べて今度お作りしますね。
和食ばかりでは・・・、飽きが来ますでしょうし・・・」
『今度』の話をして、自分が逃げるつもりは無いことを、
伽藺は暗に示してみた。
その言外の含みに、気が付いたのか、付いていないのか。
少し考えたように箸を止め、緑の樹妖に言い付けた。
「そうだな、明日にはチェスに、付き合え。
軍務に斡旋されるくらいだ、戦略ゲームは苦手ではなかろう」
その誘いは、話し相手になる、と判断されたためだった。
そうでなかったら、やはりこの先も昨日のまま、道具としてしか、
扱いはしないだろう。
天上天下唯我独尊、天は俺の上に人を作らず、を信条とする、
アッシュにとって。
人を、自分の上だったり同等にみるということは、勿論ないとしても、
対象とするその人物に、知恵があると認められれば、
話し相手として、自分と同列に近い位置で、接しようと思える。
『人なつっこい』部分など、勿論彼には欠片も無かったが、
知識欲だけは人一倍あり、また、軽い冗談を交えた会話を愉しむ術も、
知らないわけでは無かった。
「チェス・・・ですか・・・?」
軍人将棋の一種であることは、伽藺も知ってはいるが、
実際にやったことは無い。
「そうですね、教えていただけるなら、喜んで」
『将棋』ならば知っている。郷里では弟を相手に、よく遊んだものだ。
伽藺は、特別強い方でもないが、弱い方でもない。
兵士たちの士気を操ることや、将の判断を狂わせることは得意ではあるが、
駒を効率的に運ぶ方法に、長けているわけではない。
それが、属性『幻』たる所以である。精神のない相手には効かない。
寧ろその技能が高いのは弟の方であった。
彼は駒を『勢力』と見なし、そのルーチンを理解して、捕らえる。
駒に個々の個性は必要とせず、ただ戦力と移動力のみを、問題とする。
伽藺はそんな弟から、王手をたまにしか、取ることは出来なかった。
しかし逆に考えるとすれば、戦略ゲームに長けた相手と、
長く遊んでいたおかげで、それなりの技術は身に付いていると、言える。
ごく普通の、『将棋好き』程度の相手とならば、
いい勝負を展開することが出来るだろう。
もっとも、チェスというゲームについては、全くの未経験なので、
最初はアッシュ医師について、覚えるだけで精一杯になるのだろうが。
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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
HP:
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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