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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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異大陸からの旅行者、ルリイロのトリと妖狐の仔



仕事前に、あまり時間を取らせてはいけないと、その日は早めに場を立ち去る事にした。
その前に階段を降りて来た、倭人(?)の青年に目を止める。

その髪の色から遊雅は、最初スイ嬢と見間違えた。
小柄で細身な、なかなかの美形だ。他民族からしたら多分、性別の分かり辛い容姿だろう。
(実際、遊雅も割と良く性別を、間違えられたりする。
他民族からしたら、東洋系人種の年齢や性別は、少し判断し難いようだ)

「えっとハジメマシテ。オレはウィルさの昔からのダチで、遊雅っていうんだ。
ずーっと南の、オールド大陸から、旅行で来たんだ。
んっと、アンタはウィルさの、新しい家族のヒト??」

声を掛けたら、相手も快く返してくれた。

「俺は北都。ちょっと前から世話になってる、タダの居候や。
よろしゅうに」

柔らかく微笑んだら、不思議に艶めいた印象に、なる。
何だろうこういうのは。『はんなりした』とか言うのだろうか?

そして詳しく話してみると、ERENのリーダーである瑞希氏と、旧知であるという事実。

ウィルフェア氏のご両親が、義娘のユキと旧知であったこともある。
世界は狭いなぁと改めて実感した。


帰途ぽつぽつと、懐かしい白い仔狐に呟き掛ける。

「そっか。ごく自然に行く先がわかったのは、
お前が呼んでたからなんだな・・・」
「そうですル。・・・正確にはボクが呼び掛けていたのは、
ご主人サマの分割された意識に対して・・・で」

それが、遊雅サマの中に宿っていたとは、思いもしませんデシタ。
・・・と、白狐は気配で笑った。

数年前、『彼』・・・。
今はここにいない、でもかつてここにいた人、の・・・魂? ・・・が、
遊雅の体に棲み着いた。
それからは、それなりに棲み分けのルールを作って、共存して来た。

このこともいずれは、ウィルフェアに説明しないと、いけないのだと思う。
しかしどう話したものか・・・。

「では、ボクの中のご主人サマの意識も、遊雅サマに
お渡し致しますル。
きっとその方がいいですルね」

白狐にいわれて、え・・・と首を傾げる。

「ボクの中? オマエもあの人の意識や記憶を、引き継いでるのかい??」

ハイ、と九本の尻尾が、ふさふさ揺れる。

「ええと、ご主人サマはお眠りになられるトキ、その意識と記憶を3つに分割されたのですル。
正確には・・・ご主人サマが本人で、それをされたのでは、無いのですけれど。
そしてその中の一つはボクの中に入りました。
別の一つと体は、その術を施行された方の、ところに。
そして・・・忽然と消えた一つが、どこにあるのか、ずっとわからなかったのですル」

白狐が探していた『残りの一つ』。
それが遊雅の中に入って来た分だったようだ。

「って・・・ちょっとまって! じゃあ・・・今の話からすると・・・。
体はまだ残ってるってこと!? それじゃあ、復活することも、出来るんじゃないの!!」

しかし白狐は声を曇らせた。

「眠ってから・・・五年は経っていますル・・・。
その間、ずっと魂と分断されていた体が、元のままであるかは・・・。
わかりません・・・ですル・・・」
「・・・そっか」

遊雅も項垂れる。

「ですから今のところは、遊雅サマに『魂』の欠片を預かって、ご主人サマの代わりに、
動いていただきたいのですル。
ボクだと、何かと不自由でしょうから、狐ですルし・・・」

そう言われては仕方が無い。
今まで五年間同居して来たのだから、今更一時的にその面積が増えたところで、
そうそう困るわけでもない。

「あ・・・、ですけれド・・・」
「ん?」

白狐の口元がもごもごと動く。何かを言いよどんでいるようだ。

「そもそも、人の体は魂を一つだけ入れるように、出来ていますル。
希に何らかの理由で、魂をいくつか備えてしまう者もいますルが、そういうカタには大抵、
何らかの不都合な障害が起きたりしますル。
許容量以上の活動を、脳にさせる・・・と、いうことなのデ・・・」
「じゃあどうしたらいいのさ」

遊雅が白狐の顔を覗き込む。

「遊雅サマの魂の一部、溢れてしまうかもしれない部分を、ボクが少し預かりますル。
ボクもこう見えて一応妖狐ですし、魔力属性の問題で精神に関わる術は、
扱うのが得意なのですル」

えっへんと胸を張る白狐。
その様子には頼もしさが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・欠片も無い。

「そ、そう?」
「ハイですル! とりあえず今、忘れたくないことさえ、教えていただければ、
その他の部分はお預かりするですル!!」
「そう・・・じゃあそうだな・・・。とりあえずソルの事は・・・忘れたくないし、
家族のこととか、今関わってるダチの事も、忘れちゃいけないかな。
あと仕事のことも、綺紅に任せて来てるとはいえ、何か問題があったらいけないし・・・。
預けられる部分・・・っていっても・・・。あ・・・そっか・・・」

そういえば。元から分離というか独立というか、してる部分があったじゃないか
かなり境界が緩んで来ているとはいえ。

「オマエさ、オスなの? メスなの??」
「? 妖狐に性別は無いですルよ~。物質界にいる哺乳類とは、違うものでありますルから、
狐とはいえど違う姿を取る事もありますル」

そして、少し媚を含んだような声音で、冗談っぽく言う。

「そもそも妖狐族の得意技は、美女に化けて人を、かどわかす事ですルよ♪」
「そっか、じゃあまぁ、ちょうどいいや」

ちょうどあっちも『分離』しているし。
一部、預かっていてもらうことに、しよう。

◆7/3 ツフェリアス/リカルド◆

帰宅して、白狐にいわれるがままに、儀式の準備を手伝う。
飾り縄に清酒に倭蝋燭、難解な漢字が書かれた呪符。

そしてまずは『預かりの儀』。心の中に、急に奇妙な空虚感が湧いた事を、実感出来た。

(そっか、これが『彼女』の、重みか・・・)

続いて『授けの儀』。
複雑な呪詞を白狐が呟いた途端、流れ込んで来る意識・・・、記憶・・・。
先ほど感じた空虚感が、みるみるうちに満たされてゆく。
何やら・・・、違和感のあるもので。

「ひゃっ・・・! やめ・・・ッ!!」
「怖がらないで下さい、拒絶しないで下さいですル。恐ろしい気持ちになるのは、当然ですルが」

白狐が諭すには、分離していたとはいえ、あくまで自分の一部だったものが、引き抜かれ。
かわりに他人の魂が、入り込んで来るのだから、恐怖心や心細さ・・・。
つまり『自分の存在自体が、何者かに乗っ取られそうな、感覚』は、あって当たり前なのだという。

「大丈夫ですルよ。全てが終わったらちゃんと、預かったものも返しますルから!」
「・・・っ、・・・・・・わ・・・、・・・わかった・・・」

ここは素直に受け容れるしかない。
塗り替えられてゆく記憶、価値観、自分が薄れてゆく、ダレかに塗り潰される。
・・・・・・・・・っ・・・!!


・・・目が覚めた。ここは・・・どこ?
一瞬わからなかった。記憶を辿ってしばらく、痛む頭を押さえて立ち上がった。

「そっか・・・僕は、ううん・・・オレ、は・・・」

自分の口調さえあやふやだ。どう・・・喋っていたっけ。

「気が付かれましたですルか。大丈夫・・・ですルか?」

心配そうに覗き込む白狐に、なんとか頷き返してみる。

「うん、心配ないよ、白。・・・あれ・・・」

やはり違和感を感じる。自分が自分でない感覚。

「今は、ご主人サマと遊雅サマが半分半分で、混ざっているような状態なのですル。
慣れるまでは、奇妙な心地かも知れませんですルが、一時のことと思って我慢して下さいですル」

・・・あぁ、そうか。そういえば、そう・・・だった。
僕は戻って来て・・・、しまった・・・んだ、・・・ね。
 
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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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