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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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異大陸からの旅行者、ルリイロのトリと、妖狐の仔
 
 

 

マリアンルージュ、と呼ばれる国に着いて、しばらくが過ぎた。
動く気力が沸かなくて困っていたのだが、そろそろうだってばかりもいられない。

「行かなきゃ・・・ね」

狐に呟く。
目的のある旅路だ。動かなくてはいつまでも終わらない。


元々、『彼』のいた場所に、行ってみた。
さすがにもう居ない・・・『彼女』が消えてから、しばらくは待っていたようだが。

「仕方がないか。もう何年にもなるしな」

ぽつりと呟き、次の場所に向かう。
市街から少し離れた川沿い、さらに人目につかない場所。
そこに、ひっそりと立っている、細い樹。

確かに・・・樹の先端は、普通の柳にあるように細いが、根元が不自然に
丸く膨らんでいる。
まるで何かを、内包しているように。
・・・いや、しているのだ、これは。

「ここに・・・」

遊雅・・・今はその精神の殆どを、違う者に支配されているのだが・・・は、
ごくりと息を飲んで見つめる。
そう、そこに『在る』ものは、『自分』の・・・。

「柳伽殿」

声に出して呼んだと同時に、目前にふわりと現れた、妖の女。
深緑の髪は背中を覆って伸び、青紫の瞳は頼りなげな印象を与える。

「・・・待って、いましたよ。帰って来るのを・・・」

柔らかな腕で抱き締める。
彼女は『居候』の祖母に当たる女性だ。とはいえ人間ではないので、
見た目の年齢から言えば、ほんの少女にしか見えない。
一時はその『体』を、やり直そうとする孫に、貸し与えたことも有る。

けれど結果的に、孫は現世に生きることに耐えられず、そこを離れ・・・。
彼女自身も、愛してくれた男性にどうしても気持ちを、返すことが出来ず
ひっそりと居城を出たのだった。

それでも、あまり離れていないこの場所に、居場所を構えている辺り
完全に思い切った訳でもないのだろうが。

「とてもいい人ね。大切にしてくれるわ・・・。
でもやっぱり私には、忘れられない人がいるから。
・・・あなたのお祖父様よ」

そういって、淋しげに微笑っていた・・・、記憶がある。
そんな彼女だから、その体から孫の魂が去った時、それ以上そこに
留まる事も出来なかったのだろう。

「そうね、返さないといけないわね、戻って来たのなら」

言うと彼女はどこからか、一振りの剣を取り出して、樹の根元の膨らんだ部分に
スッと押し当てる。
そして何か呪文のような言葉を、一言二言呟くと、一気にそれを振り下ろした。

綺麗に一文字に避ける樹肌。
そこからずるりと滑り落ちる、一人の青年・・・の体。
『あれ』は・・・!

抱き止めて、ぐっと引っ張り出すと、甲高い悲鳴が聞こえる。
振り向くと樹妖の娘が、剣に縋るように座り込んでいた。
苦しそうに顔を歪め、ひどく汗をかいている。

「柳伽殿・・・!」
「だい・・・じょうぶ、よ。ふふ・・・、この歳でまた、子供を産むとは思わなかったわ。
それもこんなに大きな・・・」

冗談を言って笑おうとするが、消耗の様子は否めなかった。
これ以上は無理、と悟ったのか。彼女は鋭い口調で狐に指示を出した。

「魂の・・・っ、残りを・・・返します! 白、戻して・・・ちょうだい!!」
「りょ! 了解ですル!!」

それからは、何が起こったのか、わからない。
体の内側から、何かがずるりと抜き出される、感覚。
そして戻って来る、懐かしい存在。

次の瞬間・・・には自分は元、の『自分』に戻っていて。
目前の娘は消えて、不思議そうな顔をした青年が、一人。
きょろきょろと辺りを見回して、手足を確認するように触っていた。

「僕は・・・戻ったの、かな・・・? ・・・白・・・??」
「ご主人サマ!!」
狐が駆け寄って、そのふところに飛び込む。
低くて深い声。意識の中では何度も聞いていたはずなのに、
改めて聞くと・・・やはり違う。

『戻りました・・・ね』

かわりに脳裏に響くのは、すっかり聞き慣れた少女の声。
あすかはこちらに帰って来たらしい。
残念そうな声音なのは、遊雅の意思とは関係なく、自由に扱える体を
失ったからなのか。

「えっと・・・大丈夫なの? その、何年も放置してたんでしょ、
その体・・・」

遊雅が問い掛けると、『彼』は少し弱ったように微笑んで、手を振った。

「はい。お祖母様が朽ちないように、見ていてくださったようで・・・。
あとは・・・既に人間よりも、樹妖に近くなっていたのが、幸いしたようです」

穏やかな笑みを見せる『彼』。これで『居候』は、遊雅の手を離れたことになる。

「・・・終わった・・・のかな、オレのするべきことは」
『そう・・・ですね』

少女の声が同意を告げる。
あとは、帰るだけ・・・なのだろう。今では妙に懐かしく感じる、あの大陸に・・・。
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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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