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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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「あと・・・その・・・
オレが『既婚者である』ってことは 常に覚えておいて欲しいのかな」
『・・・・・・?』
何を当然のことをとばかりに 首を傾げる気配を感じる
言いたい事が 通じてないかもと考え 言葉を替えて言い直す
「だから・・・オレはその 旦那・・・ソル・・・と
恋愛関係にある訳・・・だけど・・・
アンタはアンタで 自由恋愛をする・・・とか そういう事をもし
されたりしたら・・・ ・・・困るんだ・・・」

かつて大聖堂のどこかで そういう事件を 目にした事がある
一つ身に幾つかの 精神を有した者と その婚約者の騒動だ
結局彼等の意見が合致する事は無く 婚約は解消されたようだった

『・・・・・・』
「その・・・ソルは優しいから アンタの事も許容してくれると思う
でも・・・その・・・ 独占欲・・・結構強いと思うから・・・
裏切るような事されると 困るんだ・・・」
『・・・裏切る・・・』
「あ 別にアンタがそういうコト やりそうってんじゃなくて
されると困るって あらかじめ伝えてるだけだよ!」
『・・・・・・』
何を言っても考え込んだように 見つめて来るような感覚に
オレは少したじろいでしまう

と 話の内容に合点が行ったのか 少し苦笑した風情でオレの頭を
ぽむぽむと叩く感触を覚える
『大丈夫・・・ 僕はもうそういった事象に 関わる気は無いから』
安堵させようとして 紡いだ言葉なのだろうか
けれど それはそれで・・・少し小腹がたつ
オレが求めていた答えは こういう約束の筈だったのに・・・
こんな言葉を聞いていると かつての自分を思い出す
自身には 人並みの幸せな恋など する資格が無いと思っていた
頃の記憶だ


「・・・そういうのも どうかと思うけどさっ」
ぷいと横を向く
不思議そうに 蒼紫の瞳に覗き込まれるような 気がした
「ゴメン 訳わかんないね・・・
きっとソルは オレと同じように アンタにも敬意を払って
接してくれる・・・と思う
でも・・・ あくまでも・・・」
アイツはオレの旦那だからね と ・・・続けようとする自分と
自身がそれで立ち直ったように 本当の愛情を得る事で初めて
コイツも 更生出来るんじゃないか ・・・という自分が
激しく葛藤する

それを見て取ったのか それともここまで『同化』が進んだ以上
思考まで伝わってしまうのか・・・
彼は相変わらずの柔らかな波動で オレの背を撫でながら
語り掛ける
『それも大丈夫ですよ・・・
多分 その方向で納得して 執着が『昇華』された時
僕はやっとこの世界から 解放される事が出来るように
なるのでしょうから
仮にそうなったとしても 長い期間 貴方に迷惑を掛ける事は
無いと思います・・・』

それに・・・と 彼はオレの耳に口を近付け 悪戯っぽく囁いた

『場合によっては 『回線』を切る事も 出来ますし』
それが差すところを理解して オレの頬が瞬時に燃え上がる



「なっ・・・!」
『? 大事なことでしょう??』
邪気のない表情で問われて オレの頭に血が昇る
「そんな事はいちいち 宣言しなくていいんだっ!
それに・・・回線を開いてたら 困るのはそっちだろう!?
耳元で囁かれたくらいで 硬直するクセにっ!!」
『・・・あんな唐突にされたら 誰だってそうなりますよ』
のらくらとしているくせに 口が減らない相手に怒鳴り付ける
「あーっくそ! 見掛けによらず 根性の悪いっ!!」
『生前も良く言われてました ってまだ死んでませんか
精神と肉体を 分離させただけで・・・』
てへっ☆ ・・・とわざとらしく 照れたように舌を出す気配
ひょっとしてオレ とんでもないモノを 拾ってしまった?

『大丈夫です 貴方が起きている時は 基本的に回線は切って
おきます』
安堵させようとしているのか 深海のような優しいゆらぎが
オレの周囲に満ちてくる
「寝てる時は大抵 腕枕状態だぞ?」
『腕枕・・・』
斜め上に視線を向け 口に指を添えて少し 考えた振りを見せる
彼の姿が目前に浮かぶ
そのまま頬に手を当てると 困ったような嬉しそうな 顔をした
『わ~v したことはあるけど されるのは初めてですね~vv』
「トキメくなっ! オレのなんだからっ!!」
本気で叫ぶと『はいはい』と いかにも冗談ですよといった
様子でもって 手をひらひらと振って見せた
・・・疲れる;


『まぁ 今更って気もしますけどね
貴方の過去の記憶も 見ちゃいましたし 18年分びっしりと』
「へぇ・・・?」
そ・・・そういえば・・・ 
「わーっ馬鹿野郎! プライバシー侵害! 覗き魔!!
見物料払え~ッ!!」
『何いってるんですか お互い様でしょうに・・・
それを言うなら 僕の見た記憶は18年分ですが 貴方の見たのは
21年分ですよ?
差額をいただくのは こちらではないんですか??』
「うっ・・・」
そう言われれば そんな気もする
『まぁそれは 家賃ということで 相殺にしましょう』
提案に満足したのか 彼の姿は腕を組んで うんうんと頷いてみせる
・・・どうでもいいけど オレは何でこんなトコで
こんなヤツにえばられてンだ?
 
「じゃあ 交渉は成立・・・ かな?」
後ろ頭を掻きながら 仕方なさそうに呟くと 間を置かずに相手の
言葉も重なって来る
『そうですね・・・』
心底では 何を考えているのか 知らないが・・・
伴侶と どこか重なるような 静かで穏やかな笑み
まぁいいか・・・と 肩をすくめる
「まだ ひっかかる事は 色々とあるけど
とりあえずは・・・よろしくな ええっと・・・」
『伽・・・ ぁ・・・』
彼は改めて名を 名乗ろうとして すぐに口を噤んだ

『この名は捨てます・・・
もし必要だと思うなら 貴方が改めて 付けて下さい』
それが彼なりの『けじめ』の 付け方だったのだろう
『名を捨てる』 ・・・それによって彼が 捨てようとするものは
もっと 多くの物なのだろう

「名前・・・ね おっけ 旦那と相談してでいいかい?」
『ご随意に』
要求を 飲んで貰ったのが嬉しいのか 満足げな表情を浮かべる彼
今度はオレが要求する番だった
「そうだな その代わりってんじゃないけど 一つ頼んどきたい事が
あんだ」
『はい?』
「その・・・さ・・・」

親しき仲にも礼儀ありというが オレはあまり距離を取られるのは
得意じゃない・・・ だから・・・

「その・・・ 喋り方なんだけどさ 普通でいいよ?
もう何年も前になるけど 最初に会った時みたいに アンタなりの
『普通』で話してくれれば いいから・・・」
彼は少し 驚いた風を見せたが すぐに表情を和らげると
流れるような低い声で オレに告げた

『はい ・・・ですけどあの時期の僕も 決して『自然』とは
言えなかったのですよ
『自分』であることを 確立しようとしたり かと思えば違う存在に
意識を乗っ取られたり・・・
だからきっと これでいいん・・・です』
「ふぅん」
それでいいなら いいのだけれど・・・

「ま そんでも敬語とかは 疲れるからいいよ
普通に話してくれたらいいから 『記憶』の中で・・・アンタが
師匠に話してたようにさ」
軽く笑う気配 そして・・・
「うん ・・・それじゃあ いつまでになるかは 分からないけど
しばらく宜しく ・・・遊雅殿』

そして改めて 手を握り合い 握手をした瞬間・・・
意識は元のベッドに 戻されていた
まずは頬をぺちぺちと叩き ついで髪を一筋取って眺める
変わらない蒼い髪・・・
手足の長さが変わった訳でもない(実は少し期待していた)
「あー あー・・・」
声の調子もいつもと同じ 深みは無いが張りのある
少し子供っぽい声音
何が 変わった訳でも無い・・・が 確実にオレの中には
ヤツが息付いているのだろう

ふと隣を見ると ソルが静かな瞳でオレを 眺めていた
その手が頬に優しく置かれると 小さな罪悪感が胸を突いたが
頬を覆う手にオレの手も重ね 指を絡めて小さく呟いた
「なんかまた面倒事 しょい込んじゃったかも
・・・ごめんね」
『済みません』という声と 頭をふかぶかと下げる気配を
意識の奥に感じてオレは 暖かく息付く胸元に 頭を深く埋めると
今までの睡眠不足を 取り戻すかのように ゆっくりと目を閉じた

【~side・Sol~】

いつからだっただろうか・・・
遊雅が転生して、その性質にも慣れ、日々の生活が
落ち着きを取り戻した頃に気づいたように思う

遊雅の存在に惹かれるように流れてくる思念
悪意があるものではないのは分かっていたが
送られる当人には心穏やかではなかったようで
それは浅い眠りという形で現れていた

ただ、表立って危害を加えてくるわけでもないので
自分から手出ししていいものか分からず
さらに気になるのは、この思念の気質に覚えがあったのだ

『・・・威紺さんと同じような質、いくつか重なる特徴・・・
ということは、血縁者・・・だろうな・・・』

生物の細胞が発する波動には個体ごとに固有のパターンがある
そこには遺伝情報なども現れている
それを比較することで、当人たちが知らない血縁関係でも
おおよそ察することが出来る

ただ、かなり微細な違いであるし、意識を集中して視ないと
拾えない情報であるから、普段は使わない感覚だったが・・・

彼の関係者となると、そう無下に扱うわけにはいかない
そうして、しばらく自分は見守る立場となった

やがて季節は巡っていき、風が少し肌寒く感じた夜だった
傍らで眠る遊雅の声に気づく
それは、いつもの魘され方とは違った
そして微かに耳に響いたのは、二つの波長が共鳴する音

『あの思念と同調した・・・いや、取り込んだ・・・?』

刺激を与えないように、そっと遊雅の体・・・その存在を
腕に抱き込んだ
遊雅の波動に自分の意識を合わせる

喰われる事はないだろうとは思うが、精神のバランスを
崩したり、己を見失なって迷ってしまうことがないように
心の命綱を渡しておいたのだ



どれくらい、そうしていただろう・・・
突然、腕の中で遊雅が動いた
頬を叩いたかと思うと、髪を一筋摘んで眺め
確認するように手を見回した後「あー あー・・・」
と声を上げた

やがて気づいたように自分の方を見る
そっと頬を撫でると手が添えられ指が絡められた

「なんかまた面倒事 しょい込んじゃったかも
・・・ごめんね」

そう小さく呟いて、遊雅は自分の胸に顔をうずめ
ゆっくりと眠りへと落ちていった

その様子を確かめるとゆっくりと体勢を整えた後
天井を眺めながら心の中で呟いた
 
『さて・・・後ほど、自分もご挨拶に行った方が
良いだろうな・・・』

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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