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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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何という・・・、ことだろう・・・。
黒衣と紅羽根に身を包んだ男は、見る見るうちに姿を変えてゆく樹妖を見て、目を見開いていた。

魔法と打撃で攻撃したことは、無論、彼本人の意思ではない。
伽藺は親友が可愛がっている従弟であり、ゆえに彼にとっても弟的存在と言えなくも無かった。
だから支配者の命令とはいえ、扱う中でも最大級の魔法を使おうとした時、
自由にならない体に懸命に力を入れて抵抗したものだった。
けれど魔力は放たれ、さらに当て身までも食らわせた。

見た目通りの、細く頼りない胴に、深々と食い込む拳。
それだけでも彼には辛い感触であったが、本当に驚いたのはその次の瞬間であった。
青年の体がしゅるしゅると縮み、若いというよりは幼く見える、少女の姿へと変わっていった。

「・・・・・・」

短い手足にあどけない顔立ち。こんな小さな娘を・・・自分は全力で殴り付けてしまったのか。
これが、納得して引き受けた『仕事』であったなら、ほろ苦い感情はあったにせよ諦めもついた。
しかし今は違う。体は、妖しげな女に妖術で支配され、納得の出来ない行動を繰り返している。

ぎり、と奥歯を噛み締めるしかない。
それでも少女を『抱えて運べ』といわれたら、体はやはりその指令通りに動いてしまう。
伽藺に化けていた少女を肩に乗せると、上階に彼女を運ぶべく広間を後にした。

「助かった、礼を言うぞ。暮蒔の姫よ」

地響きのような声で、虎人の城主が玉座に話し掛ける。
その後ろから音もなく出てきたのは、倭服をモチーフにしたドレスの女。
黒髪をさらさらと揺らして周囲の状況を視認する。

「すごいことになっていますわね。100年をかけた結果・・・ね、ふふ、怖いこと・・・」

歌うように笑う女とは対照的に、虎人の城主はぐぬぬ・・・と低いうなり声をあげた。

「折角の城が・・・見事にしてやられたのう。外にいた部下共もどうなっているのやら。
起こして回らねばならないか。ほれ、ミュウリーシャ、倒れている場合ではないぞ!」
「その必要はありませんわよ」

女が言うと同時に、柳枝に絡め取られていた兵士たちが、一瞬にしてもがき苦しみ、
大量の水と血泡を吐き出すと、その体から力を失った。

「な・・・!?」

同時に城主も喉を押さえて苦しみ出した。
濃い・・・塩を含んだ水が、胃を喉を鼻を覆い、肺へと流れ込んでゆく。

「もぐ・・・っぐは・・・! は・・・!!」
「私にとっては有難い話。
ゆっくりゆっくり、貴方の協力者を装いながら、全てを奪おうと思っていたけれど。
此処までお膳立てしてくれたなら、それってつまり・・・今やれ、って、ことよね?」

言い切る前にもう、虎人はこと切れていた。
ごふっと吐き出された水と血泡の中には、びちびちと跳ねる大きな蛭のような生物。
どぅん、と大きな音を立てて倒れたその巨体を、虎妖の姫は大きく瞳を見開いて見ていた。
柳枝に締め上げられ、そして開放されたはいいが、次の瞬間・・・目前で父が殺され。
彼女は完全に混乱していた。

『お・・・お前・・・! 一体・・・!! ち、父上をどうした・・・!?』

毛を逆立てた虎妖の姫は、得体の知れない力を持つ女・・・。
【協力者】であった筈の裏切り者に対し、跳び掛かれもしないまま立ち竦んでいた。
敵を排除したいという怒りと、偉大なる存在だと信じて疑わなかった父の死への混乱、
そして、それを受けての本能的な怯えが・・・彼女の足を地に縫い付けていた。

綺麗に結ってあった長い鬣は既に半分解けている。
変化術に堪能な影武者ほどではないが、彼女も多少人好きのする容姿に化けていたようで、
人の目からしてもまぁまぁ、愛らしいと言えないことは無かった。
口元からは鋭い牙が覗いており、両手両足には鋭い爪が現れていたが。

「こういう時、皆殺しにするのが一番、賢いやり方なのでしょうねぇ。
でも私、女の子を苛めるのは、好きじゃないのよ。特に貴女は・・・少しは可愛いからねぇ。
さぁお逃げなさい。そして何処へなりと、助けを求めに行くがいいわ。
その時にはちゃんと伝えるのよ。愚かな筋肉馬鹿の父上が無くなったことと・・・」

ばさり、と。豪華絢爛な羽根扇子を広げて、女が妖しく視線を流す。

「この私、『磨凛』が主になったことを、・・・ね?」

喉の奥から、搾り出すような唸りを1つ上げると、ミュウリーシャはだっと駆け出した。
それを恍惚の瞳で見ていた女・磨凛は、扇子を閉じると甲高く笑った。

「あーっはははははぁ・・・!!
くく・・・快感ね。若い娘の・・・あの、憎しみと怯えが混ざった、悔しそうな顔!」

悪趣味な、と、自由を奪われた男は、その哄笑を眺めていた。

「あらあら、彼女を逃がしたのにはちゃんと、理由があったのよ?
多分あの娘は近隣の、有力妖魔の元に向かうわね。
そして今あったことを、包み隠さず伝えるのだと思うわ。
まぁでも、もしその相手から助力を得られたとしても、こちらには・・・」

ぱしんと扇子で手を打つと。今倒れたはずの兵士たちが、ゆらりと立ち上がっては、
身に絡む柳枝を振り払い始めた。

「兵隊はいくらでも、いるのですもの。
これを幸いにして、力を見せ付けてやればいいのよ、そうしたら私は・・・。
人の身にして・・・妖魔の豪族の仲間入り。ふふっ・・・♪」

それが、どういう仕組みなのか、男は理解していた。
事実、彼自身が操られていたから。
しかしそれと同時に、自分に掛けられている呪いとは、原理は同じでも強度の違うものだと、
理解することが出来た。

目前で泥人形のように動く兵士たちは、明らかに自由意志というものを、失っているようで。
自分は、自由意志を残されたままに、体だけを操られている。


虎妖の王の死体の片付けは、操った兵士たちに任せておいて。
磨凛は何か用があるということで、さらに城の上階へと登っていった。
少女を担いだ男は、先程の姫君の私室だったのだろう、比較的女性らしい豪華な部屋を見付け、
寝台の上に彼女を降ろした。

命じられた通り、手首と足首を枷で留め、鎖のついた首輪を嵌める。
緑の髪がぱらりと広がり寝台を彩った。

「・・・・・・」

長身の青年から小柄な少女に変化したせいか、白い肩や胸元が剥き出しになっている。
ローティーンくらいに見えるが、思ったよりも体のラインは、成長しているらしい。
それを知って照れるほどには、男は幼くも世慣れていなくも無かったが、
さすがに気が引けたか、胸元に手を伸ばしては、きゅっと引っ張って整える。
その程度の行動には制限もかからないらしい。
その瞬間、青紫の双玉に、捕らえられる。

「・・・・・・!」
「・・・・・・」

驚いた顔の男を少女は静かに見上げていた。
正直、気まずかった・・・。

少女の手足を寝台に繋ぎ、肌蹴た着物に手を掛ける。
この構図では普通に考えても、変質者に間違われかねない。
しかも、誤解と伝えられればいいが、今の自分は言葉一つさえ、満足に選ぶことが出来ない。

そんな状態で硬直していると、少女は戒められた手を、胸元にある男のそれに重ねた。

(大丈夫よ、私の声を受け取って)

それは音ではない、純粋なる『情報』として、男の脳に直接響いた。

(貴方・・・伽藺を知っているのね。私は柳伽。あの子の・・・そうね、血縁者です)

それはそうだろう。
緑の髪に青紫の瞳は、どこをどう見ても伽藺の、そして威紺とも同じものだ。
どこか、おっとりとした感じの顔立ちも、よく似ている。
これで無関係な誰かと言われても、説得力が全く無い・・・。

(ふふっ。いやだわ、私はこう見えても、妖怪なんです。
外見の特徴や年齢などは、いくらでも変えられます。
貴方が今思っているよりも、ずっと私は年寄りなんですよ?)

どきっとして、思い直した。
そうだ、精神に直接話し掛けているということは、逆に男の思考が読まれていてもおかしくはない。

(ごめんなさいね。貴方が話すことの出来ない状態だと思って、勝手に夢に侵入したのよ)
(夢・・・?)
(ええ。私の能力の1つに、相手に幻を見せるというものがあるの。
それを応用してその幻に侵入し、意思の疎通を図ることも、やろうと思えば出来る。
つまりね、今この段階で貴方は私の幻術にかかって、白昼夢を見ているのよ)
(・・・夢・・・)

そういえば何か現実感のない視界である。
よく見ると目前の少女の戒めは解け、寝台に座って男の手をそっと握っている。

(貴方は伽藺のお友達? お名前を教えて下さるかしら)
(ティル・・・、ティル・ラー・ポット)
(あらまぁ! では、威紺と仲が良いという、あのティーラ様かしら)
(仲・・・あぁまぁ・・・。良いというか何というか・・・)

親友というにはちょっと辛口で、ライバルというには少し甘い。
威紺とは不思議な関係だと自分でも思う。
年単位会わなくとも、気掛かりでもないし、心配でもない。
けれど仕事で誰と組むかといわれたら、多分お互い指名し合うのだと思うし、
心から困ったことがあったなら、他の誰でもなく互いを頼るのだと思う。
そんな間柄。

(そして、貴方にそんな拘束を施したのは、あの子・・・磨凛なのね)
(あぁ。何を望んでかは知らないが、傭兵として雇われたと思ったら・・・)
(何を・・・それは・・・)

柳伽と名乗った少女が何かを告げようとした時。
白昼夢は終わりを告げた。

「あら。お祖母さまの顔をじっと覗き込んで、どうしたのかしら?」
「お・・・祖母・・・?」

改めて見直すと、柳伽は枷を嵌められたままの姿で、小さな寝息を立てていた。

「そうよ、そんな姿をしているけれど、聞いていたでしょう?
彼女はもう100歳以上になる、私たちのお祖母さま。正しくは曾祖母さまね」
「・・・・・・」

『年寄り』。なるほどな、と、ティーラは納得した。

「私が前に見た時は、もうちょっと大人っぽかった気がするのだけど、
何かの妖術で力でも失ったかしらね?」

近付いて頬をゆっくりと撫でる。
男性より女性を愛する、この女主人の性癖はもう、ティーラは理解していた。
今も自らの曾祖母でありながら、愛らしい容姿をしているこの捕虜を、
どうしてやろうか考えているのだろう。

「一応、長上を敬うのが・・・、暮蒔の一族だから・・・。
ひどいことは出来ないわね。・・・何らかの取引材料に、ならないかしら。
さっきの百年柳が奥の手なのだろうし、どうせもうたいした力はないでしょう。
殺してしまわなきゃならない程じゃ、無いとは思うのだけど・・・??」

問い掛けているように聞こえるが、その実ティーラの意見など求めてはいない。
磨凛の中ではもう、曾祖母の使い道は、決まっているのだろう。

「ほんと、悪戯したいくらい、可愛い寝顔。
でもさすがにお祖母さまだものね、一応は敬って差し上げましょう」

磨凛はそう言うと、ついとベッドから離れた。

「それにしてもこの城は趣味が悪いわ。獣皇殿だって・・・ネーミングセンスも最悪。
まずは調度を私好みに整えていくかしらねぇ・・・」

ひとりごちる磨凛。
・・・侵入者があることに気付いたのはその瞬間であった。


長い長い柳枝まみれの廊下。
それを押し広げ、斬り開いて、威紺は上へと走っていた。
捕らえられている者と、死んでいる者しかいない、気持ちが良いとはいえない景色。

「・・・しかしおかしいな、死者の様子が・・・どう見ても、
枝に巻き付かれての圧死じゃない・・・」

妖怪の死体など、あまりゆっくりと見ていたいものでもない。
しかしそれにしても、この様子はあまりにも、不気味すぎるのだ。

「それに匂いが・・・」

どこかで嗅いだ匂い。生臭い・・・ような・・・。

「まぁいいや、いっちゃん上まで上がったら、何が待ってるのかわかるだろ!」

結局、大雑把な答えを出すと、威紺はその重そうな体を、俊敏に階上へと運んでいった。
・・・と。

「ん・・・? 誰か・・・来る・・・??」

視線の先に何やら、ちらちらと映るものがあった。
濃桃色の布に見えたが、それは単なる衣服の色で、包まれているのは人型の、
何らかの生物・・・妖怪のようである。

「・・・・・・」

敵か味方かはわからない。しかし警戒をするに越したことは無い。
腰に差していた、半ばから折れたような形をした蛮刀を抜くと、周囲の柳枝を斬り落とし、
簡単な立ち回り程度は出来る空間を作り出した。

「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか、だねぇ・・・」

スリルシーカーな部分のある威紺は、そう呟くと唇の周りをぺろりと舐め、
近付いて来る人影を待った。


『父・・・上っ・・・! あぁ、兵士たちも・・・、・・・ああッ・・・!!』

虎妖の姫、ミュウリーシャは走っていた。
どこまで・・・どこまで走っても、柳枝は行く手を塞ぐし兵士たちは、こと切れている。

『どうして、どうして・・・こんなことに、・・・あっ・・・!?』

そして、その正面に立ちふさがるは、人間の・・・男・・・。
妙な形の大きな刀を構えている。
その髪は濃緑で瞳は蒼紫、暮蒔から迎えた『入り婿』と、同じ色彩を持っている。

思わず立ち止まり、鋭い爪を構えた。
どれだけ傷付いて怯えていても、妖の将姫だ、戦いの意思を失うことはない。

「・・・おマエ、暮蒔ノ、モノ、か」

剣を構える男と、爪を構える娘。
じりじりと間合いを取って睨み合ってはいたが、先に矛先を収めたのは男の方であった。

「そういうアンタは何者なんだい。見たところ若い娘で、獣人種の妖怪のようだけど」
「ワタシ・・・は、ミュウリーシャ。・・・この城の姫ヨ。・・・姫・・・だッタ、ワ」

それだけをいうと、改めて絶望感が沸いて来たのだろう。
膝ががくりと折れて、濃桃色の錦の上に、涙がいくつかの染みを作った。

「『だった』・・・? ふむ、おれはここの入り婿にするべく、伽藺を送ってきただけのつもりだったが、
いろいろあったようだな」
「送って・・・来た・・・?」

キッ、と姫君が視線を上げる。

『婿などでは無かった! あれはこの城に対する、宣戦布告じゃないか!!
さらにあの協力者の女・・・、協力者を装って近付いてきた、女・・・。
あの女が父上を・・・!!
あいつも暮蒔の者なのだろう!? お前たちはどうなっているんだ!!?』

妖の言葉でまくし立てられるので、完全に理解するには威紺には時間がいった。
あまり得意ではないが彼らの言葉で、コミュニケーションを取ることにする。

『女? ・・・すまない、その話は初耳だ。
簡単にでいいから、説明しちゃあくれねぇか?』
『初耳・・・だと・・・?』

虎と人の、ちょうど中間くらいに見える顔を歪め、鋭く長い牙をむき出しにした姫が、
叩き付けるように事情を述べる。
それを要約すると、こういう事であった。

ある日、父の元にやってきた女。
父は彼女と、以前から懇意であったようで、『暮蒔の姫』と呼んでいた。
単なる妖界の豪族であった父を唆し、力を貸すと言った彼女は、
不思議な力と謎の男を使いこなして、この城の元の持ち主を倒し父へと献上した。

『なら・・・アンタは・・・』
『元々はこの近くで徒党を組んでいた豪族よ。姫と呼ばれる立場になったのは、
この数ヶ月ほどのことよ』
『不思議な力・・・はわかる。水や・・・水棲生物を、操るのだろう?』
『そう! そうよ!! やっぱり知り合いね』
『じゃあ・・・、謎の男って、何だ・・・?』

問われると、ミュウリーシャは、少し首を傾げた。

『よくわからないけど、あの女の部下みたいな立場ね。
でもなんだろう・・・気味が悪い・・・。
ほとんど喋らないし、何より目に生気が無いのよ・・・』
『操られているのだろうな。どんなヤツだ?』
『さぁ。ニンゲンの容姿の区別は、私にはよくわからないわ。
あの女は『男にしておくには勿体無い』とよく言っていたけど。
ええとね、鳥人・・・っていうのかしら、羽根が沢山あるわ。
真っ赤な羽根・・・が、貴方と、耳と、背中に・・・』
『・・・・・・。ま・・・真っ赤な、・・・羽根ェ!?』

思わずあげた叫びに、ミュウリーシャのほうが、獣瞳を丸く見開いた。

『な、何よ・・・』
『・・・いや。ソイツも知ってるヤツだわ、っていうか・・・あー・・・。
くそぉ・・・何ドジ踏んでるんだ・・・』
『アンタ、一体どっちの味方なの? 暮蒔は一体どうなっているの??』
『・・・・・・。恥ずかしい話しだか、それはおれらにも、わからない。
というか、おれらも初耳の情報が、多過ぎるんだ・・・』
『何・・・それ!!』

虎娘が牙を剥き出す様子は、さすがに少し迫力がある。
まだ人間に近い姿に化けているとはいえ、瞳や牙、爪は完全に獣なのである。

『どっちにしても確認したい。いや・・・こうなってしまった以上、
おれ一人じゃ少し・・・荷が重いかも知れんな・・・。
それにもうすぐ、25分、か』

懐中から時計を取り出す。
今から急いで戻ってやっと、30分に間に合うというところだろう。

『・・・よし、嬢ちゃん!
どうせ逃げるつもりだったンなら、ちょっと頼まれてくれや!!』
『え・・・?』
『下におれの仲間たちがいる。
ちっと今のことを伝えて、何人か上がってくるように言ってくれや!
・・・いや、2~3人でいい。多過ぎるとこの状態じゃ、動き回れねぇし。
何より退路を確保する人員の方が重要だ』
『えっ・・・! ニンゲンたちが・・・、沢山いるの・・・?』

先程までの騒動で、すっかり人間が怖くなっているのだろう。
怯える娘の頭を撫でると、威紺は自分の髪留め紐を解き、
その獣毛に覆われた手に握らせた。

『これを見せて、おれの使いだって言やぁいい。
いきなり、攻撃を仕掛ける乱暴者はいないはずだが、それがありゃあ話も、
信用されやすくなるだろう』

それだけを言うと、威紺はさらに先に走り出そうとした。

『まっ、待ちなさい、待って!!』

その背中を、人よりは少しくぐもった声が、呼び止めた。

『お・・・?』
『わ、私・・・貴方の名前を聞いていないわ!
これじゃあ、使いだなんて・・・名乗れないじゃない!!』
『あぁ、そうか』

もう随分と間を開けてしまっていたが、ミュウリーシャに聞こえる声で、
威紺が叫んだ。

『八珠堂 威紺! や・す・ど・う・い・こ・ん、だ!!
頼んだぜミュウ!!』

それだけ告げると、再び駆け出して、階上・・・。
多分、祖母と従姉・・・そして、・・・親友・・・が待っているだろう、
その場所へと走った。

『ミュウって・・・! 馴れ馴れしいわ、父上でもない癖に!!』

頬が赤く染まったことは、顔が獣毛に覆われていたので、
見た目からはわからなかったが。

『やすどう・・・いこん、ね・・・』

もう、自分も泣いて逃げるだけの立場では、なくなったことを悟ったのか。
ミュウリーシャは立ち上がり、威紺とは逆の方向、城の出口を目指して、
再び足を動かし始めた。

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
来客
[07/10 威紺]
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