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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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翌日、夜明けの少し前からカルタが狩りの誘いに来て、
アッシュを街の外周にある砂漠地帯に連れて行く。

砂トカゲというものは。
地上を動く分には鈍重だが一度砂に埋まってしまえば、人の目では捕らえられないほどに機敏に動く。
なので、トカゲの埋まっている畝を見つけてはカタパルト式の銛を撃ち込み、地上におびき寄せて狩るという手筈だった。

畝の盛り上がりが、なだらかなところはしっぽだから、撃つと余計に地中に潜ってしまう。
頭を狙って進路を断たれたと思い込ませ、飛び出して来たところを首元を狙って、長槍を持ったカルタが襲い掛かり、
手足の付け根の関節部分を狙ってアッシュが、カタパルトで援護するという手筈だった。

すぐに要領を掴む、アッシュの器用さと戦闘能力には、カルタも上機嫌になり。
1.5mほどの比較的小さなトカゲが標的の時には、長槍係を譲ろうかとまで言い出した程である。

最終的には『市場に卸してもまだおつりが来る』ほど捕れたらしい。
また小振りなトカゲはまだ『仔』らしく、ハーブ漬けにしなくとも臭みがないとかで、
その場で解体して岩塩だけを振って焼いて食べたりもした。
乗っていった小型砂上挺をいっぱいにして帰った後、カルタは市場に寄るからと館の近くにアッシュを降ろした。


「ソレじゃあ、カルタは市場デ、コレを金に代えてクルな! アッシュにはまた分け前をワタスからナ?」
「ああ」
「・・・楽しカッタか? トカゲ狩りハ」

カルタ自身は楽しんだようだったが、ふとアッシュの反応が気になったのだろう、おずおずと尋ねた。

「うむ。地味なのかと思っていたが、なかなかに愉快な遊びだった。
幼少時にも、獣を狩る遊びはしたものだが、やはり狩りとはいいな」
「ソウカ!」

アッシュも楽しんでいたと知り、カルタの表情が明るくなった。
ナラバ明日もナ、今度はカリンも呼ぼウナ、と。はしゃぎながら砂上挺に飛び乗った。
女としての魅力は全く感じないが、よく懐く弟分として考えるなら、カルタも可愛いものだとアッシュは考えた。
ふと脳裏に浮かぶ、自ら捨て去った、未来予想図。

手入れした猟銃を肩に掛け、森の奥へと家族で向かう。
まずは自分が手本として、野鳥か野兎を仕留めてみせる。
その場で手早く捌いて荒塩でも付けて焼けば、怯えていた子供たちも新鮮な肉の味の虜になるだろう。

そうなればあとは容易いものだ。猟銃を見せ付けて次は誰が撃つかと問い掛ける。
最初は二人とも、まごまごしているだろう。
アルクなどは、見た目通りの性格に育ったとしたら、伽藺の背中に隠れるかもしれない。
リンネも興味を惹かれるだろうが、退屈な振りをしているだろう。
なに、一言二言も挑発してやればいい。俺の子なのだからきっと黙っていることは出来ないだろう。

・・・なんて、な。
そんな感慨に耽ること自体、愚かしいことだと首を振った。
アッシュと妻は死を以ってその絆を永遠とする。子供たちはまだ幼いから、判断力がつくまでは生かしておく。
そう決めたのだから、それ以外の未来も可能性も、ありはしない。

一つ、口元に冷笑を乗せて、アッシュは帰途についた。
狩りの興奮が残っている間に、伽藺にこと細かく伝えてやりたい。

「かりん! 帰ったぞ、何処だ?」

ばたばたと大声で呼び掛けながら、騒がしく屋敷中を歩き回って、妻の姿を探そうとするも。
愛しくてたまらない穏やかな姿はどこにも見当たらなかった。
高揚が焦燥となり、激昂をも呼び寄せ始める。
アッシュの剣幕に気弱なサリアがびくりと肩を竦める。
気分を害した彼が大声でがなり立てるのは、今に始まったことではないので、
リンネとアルクは平然としたものだった。

子供の世話を任されていたらしい彼女が言うには、伽藺はサーシャとユノを連れて神殿へ向かったという。
「馬鹿な!」とアッシュが声を荒げて、サリアはまたびくっと肩をすくめた。

だって、あんなに約束した。
決して先走るなと。
大丈夫です、と。いってらっしゃい、と。
昨晩のけだるさを残したまま、それでもあんなに清らかに、微笑んでいたじゃないか。

あの笑顔が嘘な筈はない。嘘など吐く筈はないんだ。
・・・けれど本当は、気付いていた。
昨晩の段階で、伽藺が何か思いつめていたこと、しきりに考え込んでいたこと。
アッシュの腕の中にいてもその瞳はどこか虚ろで。
だから、何度もしきりに言い聞かせた。決して独断専行はするなと・・・。

「かりん・・・!!」

自分の目を盗んで母に会いに行き、一体何をするつもりなのだろうか?
アッシュの中の激昂や焦燥は、極まって一種の冷静さを生み始めた。
伽藺が何かしてしまうならそれはそれで仕方がない。
問題は、妻がきちんと退路までを考えているか、そうではないかだ。

アッシュは激情的な人間だから、妻子にも気持ちは抑えず晒け出せと、常々より教えている。
押さえ込まれて圧縮された欲望ほど、後々に厄介になってくるものはない。
しかし爆発も発散も、きちんと退路を確認してからでなければ、意味がない。
アッシュのように、腕づくで退路を切り開ける自信が、あるならいい。

しかし伽藺は違うだろう。

あぁ見えても妻は計算高い。二進も三進もいかなくなるまでにはきちんと転進するだろうが、
それでもいざ手を下さねばならぬ状況に陥るまでは、虫一匹も殺せないような部分がある。
だから。
アッシュは自負していたのだ。
伽藺が何か究極的な手段に出てしまったときは、その身を抱えて逃げるのは自分の役目だと。

後を追ってすぐさま神殿に乗り込もうとも思ったが。
それよりも先に寄るのは下町歓楽街かと考える。

こんな土地でも、マフィアか盗賊ギルドくらいは、あるだろう。
金目のものは、この部屋をぐるりと見回しただけでも山ほどあるのだから、
足掛かりに困ることは無さそうなものだし。
あとはその者たちが『本当に』信用が置けるかについての目利きだが、
これについては本当に自分の勘を信じるしかない。

ギャングどもがアテにならなくとも、金さえ払えば忠実に動くような奴らは、いくらでもいる。
一枚岩の強固な宗教都市ならまずかったが、聞いた話によると実質ここの市長的存在であるジータは、
多少の差別や弾圧も政治のうちに盛り込んでいるという。
さすれば弱い立場に置かれた者が徒党を組み、差別をかいくぐるための組織を作っていることは、
どこの土地においても明白な理である。
どちらにしてもこんな、上級市民街で探せるものではない。少々寄り道をする必要がありそうだ。

方針を決め、行動に移そうと考えた折。
館の扉が開き、ばたばたと騒がしい足音と子供の泣き声が、玄関ホールに響き渡った。


「やっぱ・・・、早計だった、・・・かなぁ?」

高い部分にある窓を見上げて伽藺は小さく呟いた。
監守は先ほどまで牢のすぐ横で見張っていたが、ただぼんやりと座り込むだけの伽藺を見飽きたのか、
今は見えない部分に引っ込んだようだ。

「ふふ。旦那様に怒られちゃいますね、これ」

きょろきょろと周囲を見渡す。他にも放り込まれている者はいるようで、そこかしこから気配を感じる。

「となると正面から堂々と出て行くのは、いくらなんでも危険に過ぎるかぁ」

当然ながら脱獄するなら、人目はなるべく無い方がいい。

「・・・あの窓かなぁ。ちょっと高いし格子も狭いから、『人の形』じゃ駄目ってことか」

片手をしゅるしゅると柳枝に変える。
妖怪、特に変化と幻術を得意とする樹妖の伽藺には、人間用の牢など押入れの障子戸にも等しい。
丸腰で来たものだから、特に武装解除などもされていないし、このまま出てしまっても問題はない筈だ。

「うーん・・・。とりあえず監守さんは、あとで怒られちゃったりしたら、ごめんなさい」

言うと柳枝を細長く伸ばして、窓に突き立った柵にくるりと巻き付けた。


「か・・・伽藺坊ちゃまが・・・っ!」
「うわああぁん、うわあああぁん!」
「ゆ、夢見様へ乱暴を働いたとして、衛士団に捕らえられてしまいましたっ!!」
「何だと!?」

その言葉はアッシュにとって、信じられないものだった。
まさか『あの』伽藺が。

甘く優しいだけの妻ではないが、それにしてもいきなり暴力を奮うようなことを、
あの平和主義者がするとは思えない。

「馬鹿を言うな、何かの間違いではないのか!?
一体、何があった、何のつもりだ! かりんは何処だ!?」

老婆の襟元を掴むと、アッシュは矢継ぎ早に問い質した。

「え・・・いえ! 私も何が何だか・・・。
私は待合室で待っておけと言われて、ジュノーお坊ちゃまだけを連れて行かれたのです」

老婆も混乱しているようで、詳しい話を聞けるような状況には、思えなかった。
そこに、泣きじゃくった顔のままのユノが割って入り、アッシュにしがみ付いた。

「サーシャおばあちゃんいじめないで!
おばあちゃん悪くないよ、ゆのが悪い子だから、ママが怒っちゃったの!!」
「いえ、悪いのは軽率であったサーシャでございますよ、ユノ様はいい子でした」

どうやら唯一の目撃者はこの幼児であるらしい。
的を得た受け答えも出来ない子供から話を聞き出すなど、アッシュの最も苦手とするところだが、
伽藺の身柄が掛かっているのだから仕方がない。
これがそこいらを走っているような糞餓鬼なら、殴り飛ばしてでもきりきりと吐かせるのだが。

途切れ途切れかつ断片的な証言から話をまとめると、待合室にサーシャを待たせることにした伽藺は、
ユノを連れて夢見師の居室に入った。ここまでの手順はどうやら昨日の通りだったらしい。
しばらくは伽藺もカテリーンも和やかに話していたが抱いている子は誰かという話になり、
「誰だと思いますか」と伽藺は返した

「かりん・・・? いいえ違うわね、かりんはここにいますもの。じゃあきりん・・・??」
と悩み込む夢見に伽藺は、「わかりませんか? 末の弟のジュノーです」と、答えた。

ものごころ付いてから今まで母に会った記憶はなく、
「いい子にしていれば、母に褒めて貰える、抱きしめて貰える」と聞いて育っていたジュノーは、
どきどきしながら母の反応を待った。
しかし返って来た言葉は「知らないわ」というものだった。

ショックを受けたジュノーは泣き喚いた。
生まれてからずっと、会ったことは無いが話に聞いていた母に、拒絶されたのである。
たった5歳の子供に冷静でいろという方が無理な話であろう。

しかしそのけたたましい泣き声を聞いて、カテリーンも過去のトラウマを思い出したのか、
混乱したかのように泣き叫び始めた。
「泣かないでよ! 好きで置いて行くのじゃないわ!!」とユノに掴み掛かり、
そのまま胸を抑えて倒れ、騒ぎを聞き付けた衛士たちに、伽藺は連行されたのだという。

来賓扱いだったジュノーはサーシャに返され、二人はとりあえずそのまま戻って来たらしい。

「何だ・・・。まったくかりんは暴行など、犯しておらんではないか」

となると妻は投獄されているということになる。
早々に助け出す必要がありそうなものだが、神殿の牢ということは妻の両親の膝元になる。
多少の尋問はあるかも知れないが、拷問というレベルのことまでは、されはしないだろう。
となれば、根回しの方を先にしたほうが、いいのかも知れない。
奪還なら夜闇に乗じた方が良いだろうか・・・。

そこまで考えて、ふと先ほどの証言の一つに、疑問を持った。

「先程『悪いのは軽率であったサーシャ』と言ったな。
軽率だと言えることを、貴様は何かしたことがあるのか?
伽藺の言うがままについて行ったことか?
そもそも何故、今まで親と隔離させていた訳有りの幼児まで連れて同行することを、承諾したのだ?
そいつの実質的な親権者はあの小生意気な長女で、隔離についてもあの女が判断したことだろう。
だとすれば貴様の独断で面会させることは、乳母としては越権になるとは思わなかったのか??」
「そ、それは・・・、そう・・・ですけれど・・・」

老婆が怯えて口を噤むのを見て、アッシュはしまったと思った。
自分はいつもこうなのだ。
別にこの老婆を糾弾したかった訳じゃない。
ただ単純に、越権を犯してまで伽藺の頼みを受け入れた、その詳細が聞きたかったのだ。
それを知ることによって、伽藺が嘘をついてまで独行した、理由が読み取れるような気がしたから。

「責めているのではない」

今はそう呟くことが精一杯だった。

伽藺に対してなら最近では、特に意識しなくとも柔らかい言葉がいくらでも出るのだが、
他人には未だ冷たい言葉しか吐き出すことが出来ない。
しかしそれでもサーシャの緊張はほぐれたのだろう。
ユノのたどたどしい言葉を整理しているうちに、混乱が落ち着いて来たのかも知れない。

「伽藺坊ちゃまが昨晩ジーナ様から、どこまで聞いたのかはわかりません。
けれど私に『少しでも後悔されているのなら、今をおいて取り返す機会はない』と言われ・・・。
確かに私はかつての軽率で、ジータ様を・・・ひいてはユノ様を、歪めてしまいました」

サーシャから伝えられた話はおおまかには、昨晩に伽藺から聞いた話と同じような内容だったが、
ジータを引き取った前後に重点が置かれていた。主観がどこにあるかの問題だろう。

「ジータ様が夢見様からの虐待を受け、私が引き取ってからしばらくの間は・・・。
すっかり萎縮したジータ様に対して、私も腫れ物に触れるような接し方しか、出来ませんでした。
しかしこのままではいけないと。
このままでは、ジータ様とカテリーン様の間に、大きな深い溝が出来てしまうと。
カテリーン様は悪くないのだと、悪いのはあの方を狂わせてしまった、異国なのだと・・・」

そこまで言うと項垂れて、サーシャはユノを抱き締めた。

「それがジータ様を、あれだけ変えてしまうことになるとは、私は思っていなかったのです。
軽率でした・・・。カテリーン様を憎んで欲しくないばかりに、私はあの方の血の半分・・・。
お父様を、恨ませるような言葉を、吐いてしまった・・・」

ジータはその日から、丸まって怯えたように暮らすことは、無くなったが。
自らの父を含む全ての異国人を憎むようになり。
また、両親自体にも特別な幻想を抱かなくなったのか、『宗教という強い力を生み出す存在』として、
家や都市を大きくするための材料として扱うようになった。

「今のジータ様にとっては、街の運営も教団の管理も、全てはゲームに過ぎないのです。
・・・所詮、遊戯盤上の駒だと思い込むことで、孤独感に潰れそうな心から切り離したのでしょうが。
ユノ様の教育も・・・、人生も・・・。あの方にとっては多分、盤上の出来事の一つなのです・・・」

ぎゅっと強く、ユノを抱き締める。「こまー?」と、話が理解出来ていないユノは訊き返した。

「なぜユノ様を伴うのかと尋ねた時、伽藺坊ちゃまは『その子がいなければ母は欺瞞に気付かない』と言い、
また『親に愛されていることを知らずに育つと、無条件な愛を信じることが出来なくなる』とも、
言っていました。
あれは・・・坊ちゃま御自身のことだったのでしょうか・・・」

あぁそうか。アッシュは胸の奥から、何かのつかえが落ちた気がした。


伽藺は常々、愛情の理由を聞きたがった。
理由などは無いと言っても伽藺は納得せず、やれ白い肌が好きだとか長い髪が好きだとか、
どこまでも服従するその姿勢が好きだなどと、一晩に渡って説明させられた夜もあった気がする。
擦れ違いが起きる時も、大体は伽藺が自分に向けられた愛や想いに気付かず、
自分は嫌われている・・・もう飽きられたんだと、落ち込んだ時に起こっていた。

アッシュからすれば愛することに理由などは無いのだ。
それは魂の咆哮であり、本能が指示する行動なのだから。
確かに、最初に惹かれたのは儚げな容姿であったし、都合がいいから側に置こうと決めたのもある。
しかしそれは単なるきっかけにしか過ぎず、それが恋から愛となった今においては、
表面的過ぎて無意味な事象でしか無いのだ。

多分、今の自分なら妻の美しさが失われても、愛し続けることが出来るだろう。
家事をすることも、自らへの奉仕が出来なくなったとしても、変わらずに愛することが出来る。
それは魂がそう望んでいるから。
・・・しかし妻はそれを、理解出来ないという。
理由のない愛や理由のない信頼、そんなものを信じて甘えるような、恐ろしい真似はできないと。

やがて、恋人から婚約者となり、夫婦となって。悪戯に不安がることは少なくなったが。
それでもやはり時折は怯えて、アッシュの想いを拒絶しようと、することもあった。
捨てられるくらいならば、自分から壊して逃げた方がまし。
妻の反抗や憎まれ口の原因が、大体においてそこにあると認識できてからは、
アッシュも随分と寛大になったかと思う。余裕が出来たのかも知れない。

けれど。
そんな理由で妻からは、揺ぎ無き意思力を持つと思われているであろうアッシュにだって、
伽藺の不安がわからない訳ではないのだ。
寧ろこの臆病な伽藺でさえ信じているような愛も、アッシュは信じられていないのかも知れない。

アッシュはそもそも他者からの愛が、自分に向けられる可能性があるなど、考えたことも無かった。
自分は常に残虐で非道で。狙われた者からすれば、悪魔以外の何でもなく。
だから自分から伽藺に対する愛は、この上なく信じられるものの一つではあったが、
伽藺から自分に返される愛など、ある筈はないと長らく信じ込んでいた。

そう。この世の悪徳を体現したかのような、こんな男に向けられる愛などは無い。
期待しなかったから、絶望もしなかった。伽藺と愛し合うまでは。
・・・自分がそうなったのも、ひょっとするとその言葉の通り、親からの愛情のようなものを、
感じたことが無かったからなのかも知れない。


「そりゃあ私も反省するところがありましたし、協力出来ることならしようとは思っていましたが、
まさかこんなことになるとは・・・」

困り果てて呟く老婆に、抱き竦められたままのユノが、問い掛ける。

「ユノ・・・ママの子じゃないの?」

カテリーンの言葉が胸に刺さったままになっているのだろうか。
「いいえこんなに、カティ様にそっくりではありませんか。示蓮様にもそのうち似て来ますよ」と、
サーシャはその小さな頭を撫でた。

「ふん、貴様らの自己嫌悪などは、どうでもいい。
要は狂人よりぽんぽんと産み落とされた赤児が、母の愛憎を巡り歪んだということだ。
・・・下らん。俺はかりんを連れ戻しに行く」

大体の事情は飲み込めた。あとは退路を確保しつつ、妻を奪還すれば問題は無い。
資本金を漁ろうと、館の奥に引っ込もうとした時、静かな音を立てて扉がそっと開いた。

「あのぉ~・・・。えへへ、ただいま、です・・・」

扉の向こうでは頭から埃を被った伽藺が、申し訳なさそうにアッシュを見つめていた。

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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