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◆side - A
まるで、生きている人間のようだ。
これは半妖、人間の常識で縛られない
玩具なのだと思っていた。
いつだって、どんなに切り刻んでも
半日も寝れば嘘のように回復した。
そう、嘘のように。
しかし今回に限って、数日経っても起きやしない。
嘘じゃ、ない、のか。
何の気なしに、医師は患者の冷たい手を握っていた。
「早く起きろ
・・・粥が冷めただろう」
◆side - K
『声』の正体を、僕は知っている。
其れは、かつて共に暮らした、彼らでもあり。
優しく見送ってくれた、祖母なのかも知れない。
いいや、いつか自分が不幸にしてしまった、あの、
刹那しか側にいなかった、恋人たちでもある。
それとも、何も言わずに離れてしまった、
大好きだった兄弟たちだろうか?
『本当に幸せ?』
如何して其れを問う。『幸せ』とは何なのだろう。
問われなければ、疑問なんて、持ちもしなかった。
・・・幸せなのだろうか。
でも幸せって、何なのかな。
全てが思うままに運ぶことが幸せ?
けれど、世界には自分とは、違うイキモノが満ち。
空気も天気も、毎日少しずつ違っていて。
完全に『満足』することなどは滅多に無く。
でも、だからこそ、驚きに満ちるとも、いうもの。
あぁそうか、この『声』は、自分自身。
きっかけはきっとささいなこと。
手元に届いた短い書簡。
古い縁のひとが、機嫌伺いに寄越しただけの。
そつなく答えた・・・筈だった。
でもそこにあった言葉が。
いつしか、自分の胸を抉り、葛藤を呼び起こし、
見えている筈のものまで、見えなくしてしまった。
棘のように深く胸に刺さり。
『自分を騙していない?』
そういえばそんな癖が、自分にはあった気がする。
騙す? 罪を忘れたふりをして、日々を過ごすこと?
忘れてなんかいない、ずっと覚えている。
もう誰も、壊したくなんか、ないから・・・。
そのためにする、ちょっとした我慢。
それは、『騙す』ことに、なるのだろうか?
・・・いや、忘れていた、のか・・・な。
許されたつもりになっていたのだろうか。
そういえばここしばらく、罪悪感に苛まれた記憶は、
無かった気がする。
断罪の悪夢も、もう随分見ていない、・・・かも。
其れはやはり許されないことなのだろうか。
あぁ。
手が・・・伸べられる。
輝く緑、ちらちらと飛ぶのは、蝶だろうか。
澄んだ声が囁く。
『本当』を見る目は、自分の中にしか無いと。
・・・呼ぶ声がする。今度は、聞き慣れた声。
酒に灼けた喉が発する低い呟き。
もう少し・・・。
もう少しだから、手繰り寄せて・・・。
必要、だって、言って。
側にいろって言って。
◆
瞳が開く。その蒼紫の中には、未だ感情は見えず。
けれど・・・。
指先はゆっくり動いて、握られた手に力を込めようと、
していた。
◆side - A
伸ばした手に
応じるように、求めるように
患者が生気を取り戻し始める。
しかしあと一歩、足りない。
身内の声はしばしば医学の限界に勝る。
そんな事はよく知っている。
だが自らがその身内であった事も、試した事も、ない。
だから医師には判らない。
次に何をしたらいいのか。
この感情が何であるのか。
ゆえにその呟きは、呼びかけというよりも、独り言だった。
「俺は、・・・貴様がいないと駄目だ
・・いなくなるな、カラン」
◆side - K
あたたかな水が。頬に落ちた、・・・気がした。
気がしただけだった。この人が涙など見せる訳がない。
自分なんかの為に。
でも何故だろう、泣いてるように感じた。
だから、頭に置くつもりだった手を、頬に伝わせた。
輪郭を確かめるようにゆっくりと撫で。
乾いた喉に貼りつく舌を、なんとか剥がしながら話す。
「・・・ごめん、なさい。
少し、・・・眠りすぎました、ねぇ」
あぁそういえば、謝っちゃいけないんでした、失敗失敗、と。
わざとらしく呟いて。
「水が欲しいかもです、それから・・・。」
小さく肩を竦めて、言葉を繋いだ。
「甘いものがあると、さらに嬉しいかなぁ?」
◆side - A
指が頬を滑る、
それを叱責してやめさせるような無粋は、今はとてもできなかった。
ただ、抱きしめた。
あまり力をこめずに、その腕の中へと、その胸へと、埋もれさせた。
「・・・あまり、心配をかけるな」
そうして言葉少なにそれだけ告げると
水と饅頭を取りに、キッチンへと向かった。
◆side - A
包み込むように、抱き締められた。
酒臭い息。・・・いや、今日はエタノールの匂いが、
僅かにするだけだ。
普段はその酒量を心配し、小言ばかりを言っている。
でも、いざその体から匂いが消えると、
別の意味で不安になってしまう。
ずっと・・・、側にいたのかな・・・。
一服もせず? ちゃんと食事は摂った??
過去に沈むことは簡単なこと。
けれどその間は確実に、今を支えてくれている人を、
心配させている。
・・・心配・・・、してくれたんだ・・・。
「ありが・・・とう・・・」
耳に届くときっと、嫌そうな顔をするから。
部屋の扉が閉まってから、小さな声でそう呟いた。
「・・・強くなろう」
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。