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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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簡素な旅装に身を包んだあの子が、少しはにかんで私の元を離れたのは、
もう数ヶ月も前になる。
一通の手紙だけを懐に入れ、そこに書かれていることが果たして、
本当なのかどうかさえわからないまま。

「確かに、調子のいいところのある方ではありましたが、嘘を言うことは、
ありませんでしたよ」

と、手紙の主のことを形容する、あの子。
良い友達ねぇと返すと、「どうかな」と複雑そうに微笑って、頭を掻いた。
・・・ええ、わかっているわ。
『友達』というには少しだけ深い、ちょっと複雑な間柄であることは。


手紙だけはまめに送られて来る。
文面からは、元気にしている様子が、伺えるのだけれど。
便箋から、薬や血の匂いがすることが、ままあるのが心配。

「お酒の匂いが染み付いていたりもするの。
飲むような子じゃないのに・・・ね?」

雪の積もる庭を眺めて、傍らに控える仔狐に呟く。
声の主は、14~5歳ほどに見える、小柄な少女だった。

濃緑の長い髪のところどころに、鮮やかな色の葉が覗いて見える。
地を覆う雪のように、白いのではないかと、思われる肌は、
薄桃色の着物によく映えている。

少女は首を傾げてためいきを吐いた。

(要領のいい子じゃないけれど、人に嫌われるタイプではないから、
大丈夫だと思うけど・・・)

「あの子に何か不幸があったら、あの人を哀しませてしまうわね」

『あの人』。かつて、彼女が育て導き、そして愛した男性。
零れそうに大きな瞳を伏せて、少女は小さく呟いた。

「あの子だけじゃないわ」

里に残してきた子供たち、その誰もが彼女にとっては。
『守りたい存在』
けれど今、その子たちが、いがみ合っている。
歯車は、少しずつ少しずつ、狂っていた。それがここに来て、
決定的になっただけ。

「未然に防げなかったのは私の手落ちね。
でも・・・、『これ』で全てに終止符が打てれば、いいのだけれど」

幼い声に大人びた口調。
見上げる仔狐に微笑み掛けると、薄桃の着物を翻らせた。

「そろそろあの子たちが到着するわ。
白ちゃん、お出迎えをお願いね、私は出る準備を整えるから」

 柳妖奇譚 -人界の使者-

雪。そぼ降る雪、そして、川縁の柳。
そして小さな家・・・。

「っつーより、掘っ立て小屋だな、こりゃ」

緑の男は大きく息を吐きながら、頭をがりがりと掻いていた。
雪を載せた深緑の髪が、がさがさと混ぜ返される。
そう特別な長身でもないのだが、首周りと背中についた筋肉のせいで、
実際より随分と大柄に見える。

子供の頃から実戦で鍛えた、がっしりした体躯と。
裏腹に、どこか幼さを残すような、愛嬌のある表情が。
今は、少々の緊張感を以って、雪の川原に佇んでいた。

(此処に『アイツ』が住んでいるらしい。
・・・面立ちのよく似た少女と、小さな白い狐の仔と一緒に)

「狐っつーのはアレだろうな。しかし『少女』っていうのがわからん。
やっぱり、恋人とか、なのかな? ひょっとして嫁さんとか??」

弟的存在とはいえ、自分とは同い年である。
とっくに成人もしているし、最後に見た時よりは随分と、
大人びてもいる筈だ。

けれど彼の中では、弟はやはりいつまで経っても、小さな弟のままで。
いや、彼の親愛なる従弟兄弟のうち、下の方はちゃんと、
弟という意識で見ているけれど。

今から会いに行こうという、上の方はどうも、幼い時の印象が強いせいか、
そのナイーブな気性のせいか、一般で言うところの『妹』という意識に、
近い部分があった。

「。。。不純異性交遊だったらどうしよう。
ふしだらな関係だったりしたら、兄ちゃん許さんぞー?」

まぁ、当たらずも遠からずな状況に、現在本人は居る訳なのだが。
20代も半ばに、差し掛かっているはずの男に向けるには、
少々的外れな言葉だった。

「何を、ぶつぶつ言っているのです、一人で」

沈着かつ鋭利な声が背後から響き。
蒼光りを放つ黒髪が、雪を孕みながら近付いて来た。

「頭領」

黒髪の人物は、未だ少年の面影を残しているような、若さであったが。
男は自分よりも、頭一つほども小柄なその人物の前に、
膝をついて頭を下げた。

「愛しの『妹』に会えるからって、浮かれていてはいけませんよ?」

皮肉な視線を向ける『頭領』に、困ったように肩を竦めて。

「貴方にとっては実の兄上でもありますでしょうに。
嬉しくはないのですか?」

問い返された言葉には、やはり皮肉を返すような、響きがあったが。

「嬉しいに決まっているじゃないですか」
「ほう・・・」

返事は意外に素直なものだった。

緑の男と似た容姿ながら、少々小柄なせいか、体格の均整が取れているからか、
逞しいというよりは凛々しい、
むしろ整った目鼻立ちを見ると、『美しい』とさえ言えるような。
そんな澄んだ笑みであった・・・が。

「私たちを・・・里を裏切り、逃げ出した輩ですもの・・・。
嬉しくて仕方がありません。どう思い知らせてやろうかと、それを考えるとね」

緑の男の背中に頭を預け、一通りくっくっと笑うと、『頭領』が身を翻した。
頭頂に束ねられた黒髪が宙を切り、ムロマチ風の装束が積もった雪を跳ねる。

「場所を見つけたなら、他の者を呼びましょう。
ふふ、何年ぶりになるのでしょうか、『生身』のあの方に会うのは。
・・・どんな間抜け面で、私たちを・・・、見ますことやら・・・ね」
「・・・・・・」

間抜け面も何も。
葛藤はあるだろうが、アイツはお前を見るとまずは、その成長を喜び。
嬉しそうに満面の笑顔を見せるだろうよ、昔からそういう奴なんだから、と。

言葉には出さない彼の呟きを理解したのは、
彼と魂のリンクを結んでいる、『式』である炎の将・・・だけであった。

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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