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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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「ねぇ。白。何故あの子たちは、戦っているのだと思う?」
「みゅ?」

白狐は首を傾げる。
あの子たち、というのは。
暮蒔の里の者たち、皆を指していた。
人と妖。
その二つを繋ぎ、まだその境界を守るために。
危険な血を引くがゆえに、契約という鎖で縛られた、一族。

「それは『契約』だからでは、なかったのですルか?」
「ええそうだったわ。でもさっきも言ったわね、もうそんな契約の記録は、どこにもないのよ。
そもそも人など短命な生き物だわ。この千年でさえ、政治も世界もどれだけ、変化したでしょう。
そして代替わりしたとて、全ての記録や記憶を、引き継ぐことも無い。
形によっては、全く記録を引き継がない継承だって、することのある者たちよ」
「ふみゅう・・・」

まだ幼生体の妖である白狐に、全て理解しろというのは難しいが、
それは承知で柳伽は続きを語った。

「対して妖の方は、人たちよりは長命な者が多いけれど、それでもやはり代替わりはしている。
いいえ・・・戦闘本能が強い・・・。
『喰らおう』『潰そう』という欲求が強い分、正当な血族間の継承であれど、
記録を全て抹消され、新たに作り直されることだって、多いわ」
「とすると・・・暮蒔の者たちはもう・・・。
随分昔の政権交代のときなどに、もう妖界の契約からも人界の契約からも、
恩赦解放されているということですルか?」

世間を知らないなりに、自分の頭で整理しようとする狐の姿に、柳伽は小さく微笑んだ。

「恩赦であるとは限らないけれど、少なくとも私が調べてみた限りは、
縛られる理由になる契約を、示したものは保管されていないわ。
けれど暮蒔は妖と人の境界を守る。多分・・・言ってみればこれは惰性ね。
それが『使命』だと思っても、何故それを受けているのか、分かってないし。
人たちの側からも『何か知らないが便利な一族がいる』くらいの認識でしょう。
いえその存在さえももうほぼ、認識されていないかも知れないわ」

それでも、と息をつく。
人側からの待遇に関して言えば、辺境とはいえそう悪くはない土地と、
実質的な何かはないにしろ、それなりの身分という、見返りを貰っている。
だから暮蒔の力が続く限りは、境界を守るという作業に従事していても、
それはそれで悪くないのかも知れない。

「問題は・・・妖の側なのよね・・・」

妖界から貰っている見返り。それは式神を使役する権利。
ただし里長家に連なる者から、人身御供を差し出さねばならない・・・。

「まぁ正直ね?
妖の側からすれば、はぐれ妖怪が出ようが、それが人を襲おうが、別に困ることは無いのよ。
だから人身御供を出しませんといえば、じゃあ式神を使役する権利も与えない、って、
たったそれだけのことなの・・・本来はね」
「本来は・・・?」

聞き返す白に、柳伽はゆっくりと続きを語る。

「本来、妖界の王と人界に与した姫の間で、組まれた契約はそうだったの。
けれど・・・皇子と皇女の双方を失った王は、直系の継承者を立てることは出来なかったわ」
「ほみゅ・・・」
「それでも自身の血を引く者から、何とか次代は立てたのだけれど、
けれど内乱であっけなくその政権も終わり」
「・・・ほみゅ・・・」
「そもそも妖怪というのは、奔放な性分であるゆえに、束ねられることを好まない。
だから今、妖界には『王』というものは存在せず、ただ力の強いいくつかの豪族が、
属性の似た妖たちを束ねているに過ぎないのよ」

え、じゃあ。と、狐は面を上げた。

「どういう政権交代や、継承が行われたのかは、知らないけれど。
・・・いつの間にか本来の契約者とは、違う相手と契約をしている。
だからね。契約は・・・もう破棄しても、いい筈なのよ。
というよりも、契約自体・・・有効とは言えないわよね、これ」



「・・・では・・・、つまり・・・」

民たちがざわめく。
あくまで自分たちは、『古の罪』による『契約』の元、活動しているつもりだった。

「妖は確かに、大抵のものが人よりは長い寿命を、持っていますルが、
その性質上、1つの政権が長く続くことは、あまり無いですル。
奪ったり・・・奪い返されたりは、日常茶飯事ですルが・・・。
少なくともこの数百年の間は、妖界に統一政権があったことは、
無いようですル・・・」
「・・・・・・」

蒼白の肌色の中、ただ紅に浮かぶ唇を、希鈴は噛み締めていた。

「では式神は?
私たちが使役する妖はどこから来ていたのです??」
「・・・それは・・・」

狐が、自らが転がり出て来た方向を、顎でくいっと指し示す。
闇空に微かにゆらめく城影は、禍々しさを纏いそこに在った。



我らの掟は、絶対だと思っていた。
だからこそ自分たちは、罪深く、また誇り高く、美しい。
その中でも里長とその守人の間に生まれた自分は、その美しい血を誰よりも色濃く継いでいる筈。

女でさえなければ。
・・・あの女さえいなければ。
彼女さえ・・・、私の元から、去らなければ・・・。

あぁ、憎い。醜い。怨めしい。

「ねえ、私の、可愛い子・・・?」

女の声は艶やかで。
甘ったるい響きを持ちながらも、どこかに氷のような冷たさを、漂わせていた。
黒と紫を基調にしたゴシック調のドレス。
けれどよく見ると、そのデザインの基本になっているパターンは、倭の衣装だった。
蝶が舞うようにふわふわ歩き、その藍がかった黒髪を靡かせる。

その視線の先には。俯いた黒衣の真紅。

「来るようよ・・・。あの子たちが・・・、・・・ふふ・・・」

岩で出来た魔城の窓辺から、狐の走り去った方向を、見つめていた。
真紅は微動だにしない。ただただ、胸に手を添え、面を伏せている。

すらりとした体格の男だ。
しかし良く見ると肩幅はしっかりとしていて、戦い慣れた者の筋肉を有しているようであった。
そして六枚の大きな翼。天使に稀に見る六枚羽根とは違い、背に一対と頭部に二対。
鳥人・・・その中でも、少々特殊な種族なのだろう。

「会いたい? 会いたいわよね?? 会いたいに決まっているわ」

愉快そうに身を翻す女は、妙齢のようでもあったが、無邪気な少女のようにも見えた。
顔立ちは幼めで愛らしいが、体格は熟しきった女の色香を湛え。
濃い目に塗られた化粧が、退廃的な色合いを加えていた。
毒々しいまでに紅い唇から、小さな舌がちらりと覗く。

「・・・だって彼らは、私にとって・・・とても大切な存在。勿論貴方にとってもね?」

頬を撫でられても、男は微動だにしない。
ただ、手に触れた羽根と髪が紅の軌跡を描いて、さらりと軽く揺れるだけ。
その様子に、満足げな顔を見せると、女は命じた。

「顔を、上げてもいいわよ、可愛い子」
「御意に」

静かに返事を返すと、男がやっと頭を上げる。
端正な容姿を隠すかのように、鼻梁には黒い眼鏡が掛かっている。
それがまた、妙にきらびやかなゴシック調の黒衣や、手入れされた髪の中で異彩を放つ。

「瞳を見せなさい。貴方のその、綺麗な紅を」
「・・・・・・」

その命令には従わない。
女は、機嫌のよさそうな顔を一変させると、途端に苦々しげな表情を作る。

「ふん、ささやかな抵抗の、つもり?
いいわよ。どうせ、貴方に出来ることなど、それくらいもの。
うふふ、手が震えているわよ。口元もひくついていること。無様ね・・・。
・・・でも、そこが可愛いわ」

愛らしい顔に一瞬、肉食獣めいた笑みを浮かべると、再び無邪気な様子で、
ひらりと窓辺に腰掛けた。

「早く来ればいいわ、私の可愛い弟たち・・・。
大事なお友達も、もう招待してあるのだから。
そして私のこの耳に、素敵で醜い悲鳴を、聞かせて頂戴・・・?」
「本当に良いのか、暮蒔の姫よ・・・」

地響きのような声に、女は歌うように答える。

「ふふ・・・今の私はもう、そう呼ばれる存在ではありませんわ。
けれど必ず取り返す。いいえ・・・次に名乗る時は、・・・そうね。
その時はもう・・・『姫』ではなく・・・」

うふふ、うふふふふ、と。愛らしく禍々しく、女は笑う。

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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