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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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『がたたたたん!』






・・・という音の、発生源を見下ろしながら、柳 伽藺は固まっていた。
視線の先には少女が、下着一枚という姿で、転がり落ちていた。
無論、少女の服を剥いであまつさえ、クローゼットに押し込めるという、
ファインプレーが出来るほど、この青年に甲斐性は無かった。


とすると・・・。
考えたくない想像が脳裏を支配する。
まさか、いやでもあの人のことだ、でもまさかそんなこと、いやしかし。
あの時・・・初めて会った時、伽藺が意識を取り戻した直後、
彼が何をしたか・・・忘れた訳ではない。

少女は、15~6歳くらいと見受けられるが、背丈は小さく胸元は薄い。
可愛らしい顔は幼い印象すらあり、医師が淫らな目的で誘拐したとは、
とてもではないが思えなかった。
でも・・・しかし、かの医師にはもう一つの、困った嗜好がある。
そちらは、対象がどこの誰だとか、老若男女は問わなかった筈。

「だ・・・っ、大丈夫ですか、貴女・・・!」
「は、はいっ・・・!!」
「地下室から逃げてきたんですか!?」
「・・・、・・・地下・・・?」

ぎゅっ、と少女の肩をつかみ、外傷が無いかを確かめる。
見る限り、鮮血に身を染めているようにも、どこかしらの骨を、
折っているようにも見えない。
鬼気迫る伽藺にたじろぎつつも、少女が綺麗な声で言葉を紡ぐ。

「えと、その。林檎とか有難う御座いました。
あと助けて頂いて、ほんとに有難う御座います!」

助けた・・・?
自分にはこの少女を助けた記憶など無い。
それどころか、自分が拾われてから今日まで、この屋敷にて自分以外の、
『モルモット』を見た覚えもない。
困惑に気付いたのか、大きな瞳をさらに見開いて、少女が続ける。

「Σは! 
驚いてますよね、あの助けていただいた、鳥です、ピヨ松です」

ピヨ・・・、松・・・?
クローゼットの中に、自分が隠し飼っていた、小鳥を探した。
籠はもぬけの殻・・・というか、むしろ粉砕されている・・・。

「実は鳥人で・・・。
弱ってたので、ずっと鳥の姿だったんですが、元気になったので、
この通り・・・!」

すっくと立ち、「騙すつもりではなかったのですが」と頭を下げ、
感謝の言葉を述べられて初めて、伽藺は全ての事情を納得した。

「ぇ・・・・・・。
・・・えええええええぇっっ!?」

ずざざざざざっと跳び退き、壁に背中をびたんと付ける。

「ピヨ松・・・なんですか?
鳥人、って、あ、いえ回復されたなら何より、じゃなくてっっ!!」

今まで小鳥だとばかり思ってきた存在が。
私室に置いて共に暮らしていた存在が。
可憐な少女であったと知った時、どう反応するべきなのか。
・・・少なくとも伽藺は、女性と同室で夜を過ごした経験など、
人生の中でも皆無であった。

(と・・・とりあえずっ、逢瀬は基本的に相手の部屋で、
行っていましたよね。それだけは・・・助かったといいますか・・・)

最近『恋人』になった、主君の姿を思い浮かべる。

・・・と。
状況を理解したところで、現状で超えなければいけない、
問題についてを考え始めた。
クローゼットから引っ張り出したシャツを一枚被せると、
咳払いをして少女に向き直る。
その顔はもう、先までの怯えの色は残っておらず、
少々厳しめの表情を浮かべていた。

「若い女性が、男所帯で暮らすというのは、あまり感心出来ません。
かといって、帰るところがあるような雰囲気でも、無いですね。
とりあえずこの前、庭に離れのゲストルームを、作りましたので、
あそこで寝泊りしていただきましょうか」

最近建てたささやかな別館。
西洋庭園に囲まれるように、小さなムロマチ庭園があり、
その中心には、小屋くらいの大きさの、茶室を中心とした建物がある。
茶室が中心であるからには、上下水道の完備は必要ではあるし、
居住に耐え得るだけの設備も備えている。

折角の屋敷の庭を、全く放置している主に黙って、
伽藺がこっそりと建てたものであるが、まさかこんなふうに役に立つとは、
思ってもいなかった。

やはり迷惑なのかしらと、不安げに見上げる少女の視線に気付き、
表情と声音を少し柔らかくした。
考え事をしている時、非常に実務的な様子になってしまうのは、
前々から改めたいと思っている癖であった。

「ええとそれから・・・。
その格好では困るでしょうから、近々衣服を用意するとして今は、
これを着ておいて下さい。
少々、いえかなり大きいでしょうが、ピンや紐で留めていただければ、
いいかと思います」

クローゼットを漁ると、メイド服を手に取り渡す。
伽藺より、軽く30cm以上は小柄な少女に、着せるのは難しそうだが、
一番ましだったのだからやむを得ない。

女体化時の服があるにはあるが(それでも少女には随分大きいだろう)、
猫耳コートの時期ではないし、倭服はきっと着方が難しい。
バニースーツに至っては、カタギの少女に着せるような、ものでは無い。
男性サイズの衣服でも、メイド服よりはシンプルなものもあったが、
セーラー服だと、妙にマニアックだし、ナース服を着せた暁には、
『解剖していい対象』だと医師が思い込まないとも限らない。

ゆえに消去法で、メイド服に決定したのだ。

「あとは・・・。
。。。ド、ドクターにどう説明するか、かなぁ」

小鳥だと思って拾ってきたら、実は少女でした・・・なんて。
しかもその少女と、何ヶ月にも渡り寝食を、共にしていたのだから、
あのヤキモチ焼きな恋人は、どんな反応を見せることか。

(・・・いやでもあの方、確か相手が女性であった場合は、
あまり問題視はされなかったかな?)

『貴様が女とどういう間違いを起こすんだ』と、
一笑に付された覚えがある。
それでも抵抗したときには確か、
『ほう、貴様を押し倒す女がいれば、見て見たいものだ』と、
意にも介さない様子で言われた。

(普通、考えれば逆でしょうが、逆!
どこまでの草食動物だと、思われているのかは知りませんが、
一応今までお付き合いして来た方は、殆どが女性だったのですよ!?
・・・まぁ、押し倒してどうのこうの、というところまでは、
到達したことはありませんが・・・)

そのことから考えれば、相手が少年でなく少女であった分、
医師が許容する確率は高く思えた。
とりあえず・・・、夕食時にでも紹介するか・・・。

「ええと・・・。

ゲストルームには、炊事場やお風呂、家具に寝具など、
生活に必要なものは、最低限揃っている筈だと、思います。
基本は倭室ですけれど問題はないかな・・・。
不便なようなら、フローリングに、リフォーム致します。
他に要りそうなものがあれば、近々買い出しに行きましょうね。

それでは、夕食は7時ごろの予定ですから、お呼びするまで、
新しいお部屋でも見てきてくださいまし。
ついでにお風呂でも使って来れば、良いのではないでしょうか」

クローゼットに、閉じ込めていた時期を考えたら、
ほぼ半年になったような気がする。
今まで、鳥形態でしかも怪我をしていたから、
入浴の必要は無かったろうが、この時期はさすがに汗ばむ。

恐縮した少女の頭を一つ二つ撫でると、
「怒ってもいないし、追い出そうとも思っていませんから、
安心して下さいましね?」と・・・語り掛け。

部屋から退出した後、深くふか~~~く、ため息をついた。

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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