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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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「カリン・・・? カンチガイ・・・??」

黒髪の少女が少し警戒の構えを解き、目前で屋敷の中に向かって叫んだ大柄な男に、
観察する視線を送った。
その表情や声音から、少なくとも『カリン』に敵対する者ではないと、踏んだからだ。

「カルラは、別ニ利口でハナイ。
単ニ、カルタの知性が、砂トカゲと同等なだけダ、です」

ぽそりと呟くと、言われた当のカルタは愉快そうに手を打ち鳴らし、
「おお! 砂トカゲ美味いな、カルタの好物ダ!!」と上機嫌に喜んでいた。
どうやらこの随分と年下の少女に、馬鹿にされたことには気付いていないらしい。

「お客・・・様? はい、ただいま参ります・・・けれど、・・・何方??」

家事用のサンダルに足を引っ掛けて、ゆっくりとした動きで出てきた伽藺の姿に、
少女たちは揃って目を見開いた。


「・・・カリン?」
「ママ!!」
「え? ・・・はい??」

その言葉に、今度は伽藺が目を丸くする。

「ママ・・・? ・・・隠し子か??」

首を捻るアッシュを小さく睨み、ひとまずカルラに近付こうとしたが、
ぴょいと跳躍して目前に降り立ったカルタに驚いて立ち止まる。

「ひゃっ!?」
「カリンか? ・・・オカシぞ、カルタ、カリンはオニチャンだと聞イタ!」

カルタのその疑問を聞き、アッシュは耐えかねたかのように、笑いを爆発させた。

「はっはっは!」

いきなり顔を覗き込まれるわ、爆笑されるわで話の飲み込めない伽藺は、
困り果てて夫と少女たちの顔を、きょろきょろと眺め回していた。
さすがに助け船を出そうと思ったのか、アッシュが事の推測を伽藺に語った。

「この小娘二人はどうやら、貴様が送った手紙を頼りに、異国からやって来たらしい。
まぁさしづめ両親の遣いとやらではないのか?
先程の反応から察するに貴様の母は、どうやら貴様と瓜二つのようだがな」

それなら直接会ってもみたかったものだと笑う夫の様子に、
未だ目を白黒させながら伽藺は、状況を飲み込もうとしていた。

「え・・・っとつまり、私が書いたお手紙を見た・・・、母上か父上が、
この方たちを・・・代わりに寄越した、と・・・?」
「うむ、そのようだ。しかし説明不足だったようだぞ、かりん。
自身が現在女体化しており、しかも結婚しているということに触れんと、
来訪者どもも惑ってしまうというものだ。
相も変わらず抜けている」

自信が書いた手紙を改めて読んだらしく、ひらひらとさせながらアッシュが説明する。
「いえその説明不足といいますか、どう書けばいいかわからなかった、といいますか」
と、伽藺は困ったように指先を擦り合わせていたが。
流暢にやり取りされる共通語の応酬について来れていないらしい少女たちを見て、
笑い掛けてみた。

「え・・・と『オニチャン』とさっき、私のことを呼んだということは、
貴方たちはひょっとすると私の親族・・・。
・・・姪か妹に当たるのでしょうか?」

「うン! カリンはカルタのオニチャンで、カルラはカルタのイモオトだヨ!!」

そう元気に返すのは長槍の少女。
その背後にいる小柄な少女は、小さく頭を下げるだけだった。

「カルタ・・・と、カルラ・・・。
・・・カルタ様とカルラ様で、宜しいのですね?」

考えてみれば、自分たちの前から両親が姿を消した時、二人はまだ随分と若かった。
それから弟妹が生まれてもおかしくはないというものだ。

「初めまして、私が伽藺ですよ。
・・・今はそちらのアッシュ医師の妻として、伽藺・クインと名乗っております。
都合で女性の姿はしていますが、本来は貴女がたの長兄になるのだと思いますよ」

優しげな声音に、母の面影を見たのだろうか。妹たちの表情が和らいだ。
そこにアッシュが声を掛ける。

「もてなしてやれ。貴様の客は、俺の客でもある」
「あ、は、はいっ」


夫の許可も得たということで、伽藺は二人を屋敷の中に呼び込み、
冷たいフルーツジュースを出した。
カルタは嬉しそうに即刻口を付けるが、カルラはそれよりも先に言葉を紡いだ。

「オマエ様が、カリン、か。
・・・ならユメミ様のモトへ誘ウのハ、オマエ様だけでイイノカ、・・・デス?」
「え? ・・・あー、えっと。
・・・じ、実は今回のお願いの主役は、子供部屋にいる双子たちで」
「子ガ・・・いルのか」

手紙を書いた時点では、まだ詳しいことは書けなかった。
なのでゆっくりと言葉を選びながら、かつてアッシュに拾われ仕えるようになったこと、
いつしか愛し合い結婚して、子を生むために女の人生を選択したこと。
・・・この世界が崩壊しかけていることや、子供たちの行き場を探していることなどを、
ざっと説明した。

「ふぅむ」

神妙な顔で聞き入るカルラとは対照的に、カルタはストローでジュースに息を吹き込み、
ぶくぶくと泡を立てる遊びに夢中になっていた。
次はカルラが説明をする番だった。
たどたどしい言葉ながら伝えた概要は以下のようなものだった。

母であるカテリーンは、『夢見様』と呼ばれる占い師で、今は一族を導く立場にある。
しかし体が弱くあまり長く起きていられないことと、父もその側仕えとして離れられないことから、
転移の魔法を使えるカルラが使者として立つことになった。
戦闘能力に長けるカルタはボディガード役である。

カルタもカルラも日避けのマント取った姿は、伽藺に似ていないといえないことも無かった。
褐色の肌は地から黒い訳ではなく砂漠の熱線に焼かれたものであるという。
カルタは14歳で伽藺とは実に13歳の差があり、カルラに至ってはまだ8歳であるという。
しかし里にはあと二人の娘と、それからカルラよりさらに小さな男子がいるらしい。

「一気に姉妹が増えたようだな。良かったではないか」

そう笑うアッシュに、「一度も会っていないのに、そんな・・・実感が沸きませんよぅ」と、
困り顔で伽藺は答えた。


「付き合わせてしまいますね」

俯く伽藺を一瞥し、アッシュが呟く。

「当然のことだ。俺は貴様の夫なのだからな」

転移魔法というやつは、不安この上ないが・・・と、肩を竦めつつ。
伽藺の選ぶ外出着に袖を通してゆく。
砂漠の気候は、実質的な暑さもさることながら、直射日光の直接的な弊害が恐ろしい。
だからなるべく全身を覆う、しかし着脱の容易な、通気性のよい服を選び。

子供たちにも通気性を重視した服を選び、下着はなるべくまめに変えられるようにと、
少々多目をカバンに詰め込んだ。

「かりん」

最後に、自分の服を見繕い始めた妻に、アッシュは改めて呼び掛けた。

「はい?」

何枚かの、薄手の麻や綿で出来たシャツを見比べていた伽藺は、それに応えてくるりと振り向き。
いつになく思いつめた顔をしている夫を、軽く首をかしげながら見上げた。

「どうか・・・なさいまして?」
「・・・かりん」

それだけを呟いて自室に戻ると、すぐに夫は戻ってきた。
その手には小さな注射器と、今はもう見慣れた、薬品のアンプルを持って。

「貴方・・・、それは・・・」
「姉妹はともかく、両親に誰か分かられんのは複雑だろう。
最期は俺の与えた姿で迎えるとしても、数日ばかり両親に与えられたままの姿に戻ることも、
尊重してやるぞ」

その言葉に、伽藺は少し考え込んでから、静かに頷いた。
女性として生きること、女性として死ぬことを、選んだ。
けれど・・・その決意に、両親は関係ない・・・。
彼らはきっと別れた時の姿のまま、成長した息子が見たいのだろうから。

「そう・・・ですね・・・。
結婚や子供のことについての説明が難しくなりそうですけど、
両親もその方が喜んでくれますよね・・・」

そう告げると、スッと腕を差し出す。
白い肌の中に細い針が抵抗なく侵入し、血管の流れの中に薬剤を乗せた。
それから少しすると、伽藺の全身が軋み、骨の形が変わって行った。
見た目は随分と痛そうであったり苦しそうに見えるのだが、この薬剤にもう慣れ親しんだ身としては、
たいした苦痛もなくその効果を受けることが出来た。

「・・・うーん。
久し振りに男の自分を見ると、なんだか不思議な気分になります。
こっちの方が本来の姿なのにね」

鏡台を覗き込んで丸みを失った頬を撫でていると。

「随分久々に見た気がするな。俺の見初めた最初の姿だ、・・・可愛いぞ」

と、顎を持ち上げられて、ねっとりと深いキスを受けた。

「ん・・・ぁ、・・・んっ、・・・ぷ、はぁ・・・」

伽藺はキスに酔い、ぼうっとした顔で夫を眺めていたが、
人を待たせていたことを思い出して体を離した。

「ふふ、確かにこの高さで貴方を見るのは、久し振りかも。
長いキスをしても、首が痛くならなくて、良いですね」

頭一つ分以上もあった身長差は、今は10cmと少々になり。
少し背伸びでもすればやすやすと、目線を合わせることも出来た。

改めてひとつ、今度はごく触れるだけの、軽いバード・キスを交わして。

「行きましょうか。
カルタ様たちが準備を整えて、待っているらしいですから」


「来たナ! 待ってたゾ!!」

大きく手を振るカルタの背後に、砂浜に魔法陣を描いているカルラが見える。
ゆっくりと近付く二人の男に目を丸めて、やがて見慣れない男の方が伽藺だと気付いて、
「ほーぅ!」と驚きの声をあげた。

「確かにオニチャンだな。でも・・・」

ほんの少し、落胆気味に。

「アンマリ強そクないナ」
「あ、あはは・・・、すみません・・・」

伽藺は苦笑交じりに謝るしかなく。

「くっく。見た目よりはまだ強いはずだがな。
もっともどんなに強かろうが、かりんは俺だけには勝てんが」

アッシュの呟きに、おおーっと瞳を輝かせる、カルタ。

「見た目ヨリは強イのかー。
な、アッシュ。カリンは強イカ? 砂トカゲより強イ??」
「さあな。砂トカゲとやらよりは幾許か、強いのではないか」
「そもそも砂トカゲというものが、何なのかわかりませんので・・・;」

物を図る単位の殆どがどうやら『砂トカゲ』であるらしい少女に構っている間に、
カルタは複雑な図形を描き終わったらしい。
「カリン? なのカ??」と伽藺の存在を確認すると、
一行を砂浜に綺麗に書かれた陣の上に、線を踏んで消さないようにと注意しながら、
案内した。

「むう。
こんな絵で人体転送が出来るなど、ふざけるにも程がある・・・」

『魔法』という概念が苦手なアッシュは、苦い顔でぶつぶつ言いながらも、
大人しく言われる通りの場所へ陣取る。
『怪しげなもの』は近寄らないことが一番の防御だが、
どうしても近付かざるを得ないときは、なるべく専門家の助言を守った方がいい。
アナーキーな人物ではあるが、さすがに自身と家族の安全が掛かっている時にまで、
持論を貫くほど無謀でも無かった。

「さて、何処へ連れられるのやら」

魔法陣に全員を乗せ終わるとカルラは、何処か聞き覚えのある言葉で呪文を唱え始めた。
目を瞑ったことで集中したアッシュはふと、すっかりと忘れていたとある事を思い出す。

この娘達が時折二人で話している母国語。
何処かで聞き覚えのある耳触りだと思ったら、昔、歴史の知識として教育係に叩き込まれた、
古オールド語に似ているのではないだろうか。

確か古代、未だネバーランド大陸よりもオールド大陸の方が、文化が先んじていた時代。
オールドの民は自らを神の使いと称して、ネバーランドの民に接したという。
医学校を受験する時には試験のために覚えたが、その後使うこともなく忘れていた知識。

ああそうだ。

思い出した、確かエディンと言えば半裸とか呼ばれている神が、封印されていた土地だった筈。
古代に若き神と共に封じられ、そのまま幾千年を閉鎖社会で過ごした、犠牲の一族。
まぁ本人らはその犠牲さえも美化して、未だに神の血族だか何だかと自らを、
称しているのだろうが。
 
アースがエディンに封じられていたことに関係してか、アース教の神殿で使われる神聖語もまた、
同じ語族に属しているような言葉だった。
アッシュ自身は宗教に興味はないが、冠婚葬祭などでたまに、儀式に参加することはあった。

いつも隣でおっとりと佇んでいる、とろくて愛嬌があって少し間の抜けた妻が、
歴史書にも綴られる古代人の末裔だと思うと、あまりにも似合わなくて何だか面白くなる。
 
そんなことを考えていたら、風の匂いがふと変わった。
むせ返るほどの暑さだが全く湿っぽさを感じない。
目を開けてみると、見たこともない雰囲気の、真白い街並み。

「ツイタゾ、デス。ユメミ様の神殿は、そこにソビエル白い建物ダ、デス」

示された先には一際大きな、やはり白い壁が眩しい太陽に照らされた、仰々しい建物があった。

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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