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「男に戻ってもいいのだぞ」
旦那様が夜の床で、そう・・・口を開いた。
世界の終わりが告知されてから何日目だろうか。
旦那様は、今までにないほどの思考力と決断力をもって、自らの心を整理しようとしているのだと思う。
頭の良い方だ。
記憶力のある方だ。
ゆえに数多くの記憶や思考に悩まされるのだろうし、
いらない情報をシャットするためにずぼらになるのだろう。
そうしていつしか、
そう多分・・・お酒や煙草を覚え始めた年頃くらいから、数式や化学記号以外のファジィな答えしか出ない問題は、
元から考えないようになったのだろう。
理数に対しては怖いほど明敏であるのに、日常ではどこか思考を、放棄したような方だった。
それが今。
答えが、記号でも数字でもないような問題を、全力で考えている。
一番苦手な分野であろうことを、昼夜となく自身に問い質している。
だから私は焦らない。口も出さない。終末に怯えもしない。
私が取り乱すと優しい旦那様のことだ、きっとそれに気を取られて集中出来ない。
何を言っているのかと・・・こともなげに微笑ってみせた。
「貴方は世界の最後を、男性の私と過ごしたい?」
実際は、旦那様にとって私の肉体の性別は、あまり重要ではないのだと思う。
けれども本能というものなのだろうか、それともこの方の生育環境の関係だろうか。
女体の感触・・・特に乳房の柔らかさや、ミルクのような独特の女性の香りに、
特に表情を安らがせる気がする。
だから、私は。
「私は貴方のために、貴方の妻として・・・。女性になることを選択したのだから・・・。
世界の終わりの瞬間は女性として、貴方の側にいたいと思います」
終末を意識するようになってから、我ながらきっぱりとものを、言うようになったと思う。
性格が変わった、・・・訳ではない、と思う。
多分・・・昔からのことを思い出すに、元々私は土壇場になると開き直る方だった。
もう後がないと思うと、先のことしか考えなくなる。
今、考えるべきことは。子供たちのために、何が出来るかということと。
消え行く世界の中で、何が出来るかということ。
そして・・・あと何回、旦那様とキスが出来るのか、・・・ということ。
嘆き、迷い、絶望するための時間があれば、それを一つでも多くの、身辺整理に当てたい。
過去を振り返っている間に何回のキスと頬擦りが出来るだろう。
「分かった、では女のままだ」
いつもと同じように重々しく、旦那様が頷いた。
けれどその瞳が優しく緩んでいる気がする。
旦那様はこの方なりに、きっと、・・・世界最後の時間を元の姿で。
・・・友人や家族が慣れ親しんだ、男性の姿で送れるように、計らってくれようとしたのだろう。
けれど。
「貴方に出会うまでは、私は能力も性別も環境も、天や親から与えられたものだけを持って、
それに不満や愚痴を言いながら生きていたとおもいます」
弱々しい体も、物静かに見られがちな容姿も、気弱な性格も嫌いだった。
それを全て、好ましいと肯定してくれた、旦那様に出会うまで。
「でも、貴方と出会ってから得たものは、すべて私自身が選んで・・・。
手に入れたものです。
ですから私は今の自分が・・・、そんなに嫌いではないのですよ」
長く伸ばした髪も、常に薄化粧を施すようになった、地は年より少々幼めな容姿も。
旦那様の子を無事に産み落とした、少し肉付きの豊かな女性らしい体も。
与えられたわけじゃない、自身が選び出したもの。
「なるほどな、全て俺色に染まりたいという選択なわけだ」
こくり・・・と頷く。
誇りがないと笑われる事もあるかもしれない。
生まれを捨て性別を捨て、欲しいものを手に入れるため、生まれ持った全てを否定した。
けれど私にとっては、それは何よりも誇らしい生き方。
大切なものを間違いなく大切と言える。
世界が終わる前になんとか見付けられた、私だけの・・・誇りと真理・・・。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。