うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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ぼんやりと、窓の外を眺める。
強風、そして、激しい雨。
けれど彼女の視線は動かない。ただただ、ぼんやりと・・・窓の外を見遣っている。
強風、そして、激しい雨。
けれど彼女の視線は動かない。ただただ、ぼんやりと・・・窓の外を見遣っている。
夫が粥を運んで来る。
それに一口二口、口を付けると。そのまま、また妻は瞳を閉じる。
ここしばらく、彼女は時間があれば、眠っている。
子供たちの世話と、最低限の家事と仕事。それ以外の時間、ずっと。
彼女がこうなった理由を、夫は知っていたが、理解が出来てはいなかった。
ささいな口論だと思っていた。
腹が立ったのと眠たかったので、話の途中で部屋を後にした。
それから妻が、いつまで泣いていたのか、何時に寝たのか・・・知らない。
翌日に何事もなかったかのように声を掛けたとき、もう既に妻の顔からは笑顔が消え、
こんな・・・、どこを見ているのかわからない、死んだ目をするようになっていた。
そして、ほとんど言葉を交わさないままに、自室に駆け込んでいった。
両肩に青黒い痣。
まるで何者かに掴まれたような・・・。
けれど誰何しても妻は、それが何かを話さなかった。
『貴方には関係がない』と、その一点張り・・・。
扉越しにいくらかの会話を交わした。
扉が薄く開いた隙に、引き寄せて抱き締めたが、妻の目は死んだままだった。
◆
『悪かった』
数日後。
人に頭を下げることのない男がふと呟いた言葉。
途端・・・妻の瞳に、かすかな色が宿る。
『もう貴様を残して去ったりはせん』
涙が、溢れて、白い頬を伝う。
握られた手に雫が落ちて、絡んだ指の間に染み込んでゆく。
心の強い夫は。
話の途中で立ち去ったことにより、妻が傷付きまた不安を抱いたことに、気が付きもしなかった。
心の弱い妻は。
いつも泰然としている夫の中に、別離不安や自己嫌悪があるなど、理解できていなかった。
『・・・・・・うん・・・』
妻が握られた手に頬を寄せ。
『もう、見捨てられたかも、なんて思って・・・。怖くなるのは嫌・・・。
淋しいのも、怖いのも、嫌なんです・・・』
去られたときの辛さを忘れられないから、前のように屈託なく愛することは出来ないかもと、
震える声で伝える妻。
それでも待つ、例え元に戻ることが出来なくとも、愛して待ち続けるという夫。
そして妻は・・・。
『眠り』によって、記憶と感情を整理することに、決めたらしい。
夫は、自分がいたら落ち着かないだろうと、隣室に退避しようとしたが。
一人にしないでという妻の訴えで、目覚めるまでの間・・・側にいることにした。
◆
今日も妻は眠る。
夫は妻の好物の粥を用意しながら、その幼げな寝顔を眺めている。
白い頬に掛かる長い緑の睫毛を見ている。
そして、待つ。いつかあの大きな蒼紫の瞳が、うっとりと夢見るように、愛する彼を見上げる日を。
少女のように無邪気で能天気な妻が、あの少し困ったような・・・情けない笑顔を向ける時を。
それに一口二口、口を付けると。そのまま、また妻は瞳を閉じる。
ここしばらく、彼女は時間があれば、眠っている。
子供たちの世話と、最低限の家事と仕事。それ以外の時間、ずっと。
彼女がこうなった理由を、夫は知っていたが、理解が出来てはいなかった。
ささいな口論だと思っていた。
腹が立ったのと眠たかったので、話の途中で部屋を後にした。
それから妻が、いつまで泣いていたのか、何時に寝たのか・・・知らない。
翌日に何事もなかったかのように声を掛けたとき、もう既に妻の顔からは笑顔が消え、
こんな・・・、どこを見ているのかわからない、死んだ目をするようになっていた。
そして、ほとんど言葉を交わさないままに、自室に駆け込んでいった。
両肩に青黒い痣。
まるで何者かに掴まれたような・・・。
けれど誰何しても妻は、それが何かを話さなかった。
『貴方には関係がない』と、その一点張り・・・。
扉越しにいくらかの会話を交わした。
扉が薄く開いた隙に、引き寄せて抱き締めたが、妻の目は死んだままだった。
◆
『悪かった』
数日後。
人に頭を下げることのない男がふと呟いた言葉。
途端・・・妻の瞳に、かすかな色が宿る。
『もう貴様を残して去ったりはせん』
涙が、溢れて、白い頬を伝う。
握られた手に雫が落ちて、絡んだ指の間に染み込んでゆく。
心の強い夫は。
話の途中で立ち去ったことにより、妻が傷付きまた不安を抱いたことに、気が付きもしなかった。
心の弱い妻は。
いつも泰然としている夫の中に、別離不安や自己嫌悪があるなど、理解できていなかった。
『・・・・・・うん・・・』
妻が握られた手に頬を寄せ。
『もう、見捨てられたかも、なんて思って・・・。怖くなるのは嫌・・・。
淋しいのも、怖いのも、嫌なんです・・・』
去られたときの辛さを忘れられないから、前のように屈託なく愛することは出来ないかもと、
震える声で伝える妻。
それでも待つ、例え元に戻ることが出来なくとも、愛して待ち続けるという夫。
そして妻は・・・。
『眠り』によって、記憶と感情を整理することに、決めたらしい。
夫は、自分がいたら落ち着かないだろうと、隣室に退避しようとしたが。
一人にしないでという妻の訴えで、目覚めるまでの間・・・側にいることにした。
◆
今日も妻は眠る。
夫は妻の好物の粥を用意しながら、その幼げな寝顔を眺めている。
白い頬に掛かる長い緑の睫毛を見ている。
そして、待つ。いつかあの大きな蒼紫の瞳が、うっとりと夢見るように、愛する彼を見上げる日を。
少女のように無邪気で能天気な妻が、あの少し困ったような・・・情けない笑顔を向ける時を。
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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
HP:
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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