忍者ブログ
うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
 307 |  306 |  305 |  304 |  303 |  302 |  301 |  300 |  299 |  298 |  296 |
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

曾祖母の訃報を告げる従兄の訪問。
『次は懐かしい顔を連れて来る』と言ってはいたが、何かと忙しいのだろう・・・あれから音沙汰らしきものは無い。
渡すべきものというのは気になるが、伽藺も伽藺でやらなければならないことは、多かった。

そうこうしているうちに、流れるように月日は経ってゆく。
世界の終わりに際して、どう身を振るのか。
答えはある日、思考の海から浮上した夫より、言い渡された。

「滅びゆく世界と共に、運命を共にしよう」・・・と。

その結果に異存は無かった。もとより生き疲れていた命だ。
夫と出会ったことで、少しは力を与えられたけれど。それも、夫の在るが故のことだった。
ならば失う時もまた、彼の指示に従おう。

許されない罪人だと思っていた。死んだような生き方の中に、最後の瞬間だけ幸福の灯が点った。
それだけでもう、生まれてきて良かったと、そう思うだけの価値があるはずだ。

本当を言えばもっと長く生きて、子供たちの成長や将来を見届けたかった。
彼らが巣立ったあとの屋敷の中で、まるで老夫婦のような穏やかさで、淋しいですねぇなどと零してみたかった。

けれど。 夫は・・・、・・・多分・・・。
口ではどうと言っても、この世界を愛していたのだ。
そしてこの世界に愛されていないと思い込んでいた。
ゆえに彼もまた、生き疲れていたのだ・・・。

なら、淋しがりで不安がりな、あのひとを。もう独りにしないのが、妻たる自分の務め。
涙が出ないといえば嘘になる。
けれど伽藺は決めた。自分はあのひとのもの、であり。




「・・・私はもう、『主君』を、裏切らない」



 ◆

 「ココが目的の、ハウスかぁ」

幼い声が、海沿いの椰子の木陰からぽつりと、呟く。
いやどうやら、声が高くさらに片言なので、幼く聞こえるだけのようだ。
砂を踏んで現れた身体は、すらりと成長した少女のものだった。

「ココに住ンでる『カリン』を、カルタの村に連れて行けば、イインだネ」

すらりと長い手足は浅黒く、潮風に靡く髪は明るい亜麻色。
フード付きのくたびれた外套で身を覆っているから、どんな面立ちをしているかは見た限りではわからない。

 「どンなヒトかな、カッコイイといいナ、ウシシシシッ」

自身を『カルタ』と呼んだ少女は、裸足でたんと砂を蹴ると、常人では信じられないほどの跳躍力で、
高くそびえる屋敷のアーチ門を飛び越えた。

PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret (管理人しか読むことができません)
♥ Admin ♥ Write ♥ Res ♥
自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
来客
[07/10 威紺]
[07/06 ティーラ]
[06/24 威紺]
[06/23 ティーラ]
[06/23 威紺]
金魚鉢
ぼくの金魚鉢
ブログ内検索
バーコード
Copyright ©  +日々徒然+  All Rights Reserved.
*Material by Pearl Box  *Template by tsukika忍者ブログ [PR]