うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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深緑の、長い髪を無造作に結い上げた男が、見付けた時。
『彼女』はぼうっとした表情で、広い洋風庭園のガーデンチェアに、腰掛けていた。
見慣れた深緑。・・・男と同じ色の長い髪は、そのままに。
ただ、彼の見知った姿とは違う、完全なる『女』のいでたち。
未だ肌寒い春風にたゆたうショールは薄手の繻子で。
胸元や腰を強調した扇情的な、非日常的なドレスに身を包んでいることには、
最初に親友から聞いていたから男は驚かなかった。
「伽藺」
ぽぅっとした表情でティーカップを傾ける顔は、そこで初めて男の姿を見止め・・・。
「あ。・・・従兄上」
と、やはりぼんやりした笑顔を、返した。
その顔はやはり、子供の頃に見知った姿、そのままだった。
いろいろと変貌はしたが、その表情だけは昔のまま。
『彼女』はぼうっとした表情で、広い洋風庭園のガーデンチェアに、腰掛けていた。
見慣れた深緑。・・・男と同じ色の長い髪は、そのままに。
ただ、彼の見知った姿とは違う、完全なる『女』のいでたち。
未だ肌寒い春風にたゆたうショールは薄手の繻子で。
胸元や腰を強調した扇情的な、非日常的なドレスに身を包んでいることには、
最初に親友から聞いていたから男は驚かなかった。
「伽藺」
ぽぅっとした表情でティーカップを傾ける顔は、そこで初めて男の姿を見止め・・・。
「あ。・・・従兄上」
と、やはりぼんやりした笑顔を、返した。
その顔はやはり、子供の頃に見知った姿、そのままだった。
いろいろと変貌はしたが、その表情だけは昔のまま。
・・・いや、『昔』のままでは、困るのだ。
あの、古臭い因習が残る田舎に閉じ込められて、全てを諦めたような。
あんな死んだ微笑のままでは。
「お前・・・何があった、話が違うじゃねぇか!」
肩をがっと掴む。
ショールが風に飛び、むき出しの肩に指が食い込む。
「・・・っ!」
女は顔をしかめる。
この屋敷の主人の妻である女に、この辺りでは見掛けぬ男が、掴みかかっている。
周囲の住民から見れば、ちょっとしたスキャンダルだろう。
・・・少し勘のいい者ならば、女の珍しい髪の色と男のそれが、同系色であることと。
二人の顔立ちが、とてもよく似ていることに、気付くのだろうが・・・。
「ティーから聞いた話では・・・!
お前は幸せで・・・、子供にも恵まれて、愛されて・・・世界で一番、愛されて・・・!!」
力がこもる指を払いのけもせず女が顔を背ける。
「・・・うん、そうですね。
私は、すごく・・・愛されて、大事に・・・されて・・・。
・・・勿体ないくらい、・・・しあわせ・・・で・・・」
大きな蒼紫の瞳から、大粒の涙がぼろぼろと流れ。
「けど、やっぱり、駄目なんです。
所詮・・・私は私・・・。業は・・・深いです・・・」
顔を覆い、化粧が崩れるのも構わずに、泣く。
目前に居るのが、自分を幼い頃から知っている・・・。
いつも、弱虫で泣き虫な自分を庇ってくれていた、従兄弟だという安心感が。
彼女を素直にさせたのだろうか。
「・・・ティーにな。お前が、結婚したと。それも・・・男と、・・・嫁としてだと、聞いてな。
もしお前を不幸にしているなら、そいつを殴ってやろうと思って、見に来たんだ」
骨ばった拳をぎゅっと握り締める。
拳ダコが出来た大きな手に、使い込まれてくたびれた手甲を、巻き付けている。
「従兄上が本気で殴っては・・・。
あ・・・ん、・・・あの方なら・・・大丈夫、かも、知れません、・・・が・・・」
12の歳から傭兵として、人やら妖やらと戦っている、歴戦の勇士だ。
力自慢の夫と、まともにやり合ったりなどしたら、派手なことになってしまうだろう。
そしてどうせ、治癒やら屋敷の補修やらに当たるのは、自分になるのだ。
「不幸、なのは、私のせいなのです。
私がどうしても・・・あの方を、・・・信じられない・・・で、いたから・・・」
「・・・・・・?」
「やはり、裏切りを知る人間は、駄目ですねぇ・・・。
一途な相手の想いさえ、疑ってかかって・・・しまう」
涙目のまま、薄く笑ってみせる。
やはりその表情もまた、あの『死んだ微笑み』だ。
そういえば自分は、コイツの明るい笑顔を、見たことがないかもしれない。
男は、思った。
親友からは・・・、信じられないくらい屈託なく笑うようになったと、聞いてはいたのだが。
自分も見たことのない、弟・・・いや今は妹か・・・の弾けるような笑顔を、
見ることが出来たという親友と、妹の夫とかいう存在に、軽く嫉妬などを覚えつつ。
ショックを与えるだろうから、尋ねた真の目的はまだ、話さないことにした。
「・・・来るか?」
「え」
顔を、上げる。
「帰って来るか、と言っているんだ。暮蒔に・・・おれたちの田舎に」
「・・・え。でも」
「今の当主は希鈴だ。先代も・・・磨鈴姉ェもいやしない。
少々居心地は悪いかもしれないが、お前に期待する奴はもういないだろう」
「・・・・・・」
どうしよう。
・・・どうしよう。
「子供たちも、一緒でいい、のかな?」
「・・・・・・。どんな子らだよ」
「闇エルフとの・・・混血・・・です」
「・・・まぁ、もっと妖怪じみたのだって、いくらでもいるんだ。気にされんだろうがな」
暮蒔の民は基本的に、妖の血を引いている。
無論、この二人も同様で、男には戦鬼の。女には・・・樹妖の血が強く出ている。
「・・・探しに、来て、くれるかな」
「ん・・・何だ?」
ぽつりと呟いた言葉を、男は聞き逃したようで、顔を向けて問う。
「本当に・・・まだ必要なら、探しに・・・。
・・・駄目かな、もう、さすがに」
えへへ、と気弱そうな笑顔を見せて、女は涙を拭った。
「従兄弟上、そろそろ、・・・痛い」
「あ、・・・あぁ、そうか」
そろそろ、どころか。
強く掴まれた薄い皮膚には、青黒い痣が出来ていた。
「答えを返すのは、少し待って貰えますか?
あの方が怒って去ってしまってから、まだ一度も・・・言葉を交わしていないから・・・。
もし、もうあとしばらくこの状態が続くなら、・・・そのお話も・・・」
語尾は、言葉にならない。
気弱だが頑固な従妹が、何かを決意しようとしている様子に、男は静かに頷いて離れる。
「じゃあ明日、・・・また来る。
ガキ共とやらの顔を見てやろうかと思ったが、今は冷静になれなさそうなんでな、
・・・次にしとくわ」
「冷静に? 何故??」
またもぼんやりとした風情で、首を傾げる女の頭を一つ撫でて、男は明るく告げた。
「父やら兄やらってモンは、存外狭量なものなンだよ」
「・・・へ、ぇ・・・?」
小さくか細い疑問符を背中で聞きながら、短い蛮刀を差した緑髪の男 - 威紺 - ・・・は、
ひらひらと手を振りながら庭園を離れた。
あの、古臭い因習が残る田舎に閉じ込められて、全てを諦めたような。
あんな死んだ微笑のままでは。
「お前・・・何があった、話が違うじゃねぇか!」
肩をがっと掴む。
ショールが風に飛び、むき出しの肩に指が食い込む。
「・・・っ!」
女は顔をしかめる。
この屋敷の主人の妻である女に、この辺りでは見掛けぬ男が、掴みかかっている。
周囲の住民から見れば、ちょっとしたスキャンダルだろう。
・・・少し勘のいい者ならば、女の珍しい髪の色と男のそれが、同系色であることと。
二人の顔立ちが、とてもよく似ていることに、気付くのだろうが・・・。
「ティーから聞いた話では・・・!
お前は幸せで・・・、子供にも恵まれて、愛されて・・・世界で一番、愛されて・・・!!」
力がこもる指を払いのけもせず女が顔を背ける。
「・・・うん、そうですね。
私は、すごく・・・愛されて、大事に・・・されて・・・。
・・・勿体ないくらい、・・・しあわせ・・・で・・・」
大きな蒼紫の瞳から、大粒の涙がぼろぼろと流れ。
「けど、やっぱり、駄目なんです。
所詮・・・私は私・・・。業は・・・深いです・・・」
顔を覆い、化粧が崩れるのも構わずに、泣く。
目前に居るのが、自分を幼い頃から知っている・・・。
いつも、弱虫で泣き虫な自分を庇ってくれていた、従兄弟だという安心感が。
彼女を素直にさせたのだろうか。
「・・・ティーにな。お前が、結婚したと。それも・・・男と、・・・嫁としてだと、聞いてな。
もしお前を不幸にしているなら、そいつを殴ってやろうと思って、見に来たんだ」
骨ばった拳をぎゅっと握り締める。
拳ダコが出来た大きな手に、使い込まれてくたびれた手甲を、巻き付けている。
「従兄上が本気で殴っては・・・。
あ・・・ん、・・・あの方なら・・・大丈夫、かも、知れません、・・・が・・・」
12の歳から傭兵として、人やら妖やらと戦っている、歴戦の勇士だ。
力自慢の夫と、まともにやり合ったりなどしたら、派手なことになってしまうだろう。
そしてどうせ、治癒やら屋敷の補修やらに当たるのは、自分になるのだ。
「不幸、なのは、私のせいなのです。
私がどうしても・・・あの方を、・・・信じられない・・・で、いたから・・・」
「・・・・・・?」
「やはり、裏切りを知る人間は、駄目ですねぇ・・・。
一途な相手の想いさえ、疑ってかかって・・・しまう」
涙目のまま、薄く笑ってみせる。
やはりその表情もまた、あの『死んだ微笑み』だ。
そういえば自分は、コイツの明るい笑顔を、見たことがないかもしれない。
男は、思った。
親友からは・・・、信じられないくらい屈託なく笑うようになったと、聞いてはいたのだが。
自分も見たことのない、弟・・・いや今は妹か・・・の弾けるような笑顔を、
見ることが出来たという親友と、妹の夫とかいう存在に、軽く嫉妬などを覚えつつ。
ショックを与えるだろうから、尋ねた真の目的はまだ、話さないことにした。
「・・・来るか?」
「え」
顔を、上げる。
「帰って来るか、と言っているんだ。暮蒔に・・・おれたちの田舎に」
「・・・え。でも」
「今の当主は希鈴だ。先代も・・・磨鈴姉ェもいやしない。
少々居心地は悪いかもしれないが、お前に期待する奴はもういないだろう」
「・・・・・・」
どうしよう。
・・・どうしよう。
「子供たちも、一緒でいい、のかな?」
「・・・・・・。どんな子らだよ」
「闇エルフとの・・・混血・・・です」
「・・・まぁ、もっと妖怪じみたのだって、いくらでもいるんだ。気にされんだろうがな」
暮蒔の民は基本的に、妖の血を引いている。
無論、この二人も同様で、男には戦鬼の。女には・・・樹妖の血が強く出ている。
「・・・探しに、来て、くれるかな」
「ん・・・何だ?」
ぽつりと呟いた言葉を、男は聞き逃したようで、顔を向けて問う。
「本当に・・・まだ必要なら、探しに・・・。
・・・駄目かな、もう、さすがに」
えへへ、と気弱そうな笑顔を見せて、女は涙を拭った。
「従兄弟上、そろそろ、・・・痛い」
「あ、・・・あぁ、そうか」
そろそろ、どころか。
強く掴まれた薄い皮膚には、青黒い痣が出来ていた。
「答えを返すのは、少し待って貰えますか?
あの方が怒って去ってしまってから、まだ一度も・・・言葉を交わしていないから・・・。
もし、もうあとしばらくこの状態が続くなら、・・・そのお話も・・・」
語尾は、言葉にならない。
気弱だが頑固な従妹が、何かを決意しようとしている様子に、男は静かに頷いて離れる。
「じゃあ明日、・・・また来る。
ガキ共とやらの顔を見てやろうかと思ったが、今は冷静になれなさそうなんでな、
・・・次にしとくわ」
「冷静に? 何故??」
またもぼんやりとした風情で、首を傾げる女の頭を一つ撫でて、男は明るく告げた。
「父やら兄やらってモンは、存外狭量なものなンだよ」
「・・・へ、ぇ・・・?」
小さくか細い疑問符を背中で聞きながら、短い蛮刀を差した緑髪の男 - 威紺 - ・・・は、
ひらひらと手を振りながら庭園を離れた。
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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
HP:
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。
性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。
ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。
お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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