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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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「・・・かり・・・ん?」

鈴を振るかのような。
細く高いと夫に評される、女性時の伽藺の声によく似た。
しかしそれよりも、さらに頼りなげな声が問い掛ける。

恐る恐ると、そして・・・おずおずと。
ベッドの天蓋の中で、小さな影がもぞりと起き出す。

その姿は明かり取りの窓からの間接光に照らされ、まるで影絵のように見えていた。
小さな、とても小さな影だ。小柄なんてものではないかも知れない。
伽藺は固まったように動かない。返答がないことを不安に思ってか、声はもう一度名前を呼ぶ。

衛士長に肩を叩いて促され、ようやっと伽藺は足を進めた。

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アッシュは目前に広がる街、そして白皙の建物へと視線を巡らせた。

「なんと、白い」

砂の舞い白日の照りつける、夢想的な光景に感嘆するように呟き、
そっと妻の手を握り締めた。
不安になっていたり、怯えているのではないかと、少し心配になったからだった。
それほどまでに、魔法陣に乗ってからの伽藺は、言葉をひとつも発さなかったから。

「カリン・・・? カンチガイ・・・??」

黒髪の少女が少し警戒の構えを解き、目前で屋敷の中に向かって叫んだ大柄な男に、
観察する視線を送った。
その表情や声音から、少なくとも『カリン』に敵対する者ではないと、踏んだからだ。

「カルラは、別ニ利口でハナイ。
単ニ、カルタの知性が、砂トカゲと同等なだけダ、です」

ぽそりと呟くと、言われた当のカルタは愉快そうに手を打ち鳴らし、
「おお! 砂トカゲ美味いな、カルタの好物ダ!!」と上機嫌に喜んでいた。
どうやらこの随分と年下の少女に、馬鹿にされたことには気付いていないらしい。

「お客・・・様? はい、ただいま参ります・・・けれど、・・・何方??」

家事用のサンダルに足を引っ掛けて、ゆっくりとした動きで出てきた伽藺の姿に、
少女たちは揃って目を見開いた。

夫から意思表明を与えられてからの数日間、伽藺は寝る間も惜しむほどにあれこれと動いていた。

『世界と運命を共にする』

そう伝えた時、夫はもうちょっと彼女が何らかの顔色を、見せるものかと思っていた。
例えば、落胆であるとか、怯えであるとか・・・。
しかし伽藺は口元を引き結ぶと静かに頷いただけで、次の瞬間には身辺を整理する段取りを考え始めていた。

強がりで平気な顔をしていたのだろうか?
そうでは無かった。
この可能性についてはもう、一ヶ月も前より何度も考えていたことで、覚悟が出来ていることでもあった。
ただ心配なのは後顧の憂いを残さないように、残った時間の中でどれだけのことが出来るかであった。
一番重要なのは未だ幼い子供たちの預かり手を捜すこと。
しかしそれとは別に、いろいろと手を付けていた物事を、整理しようともしているらしい。

いつも、ふわふわと微笑む顔が、ここ数日の間は強張っていた。
そんな状態で動いているからだろうか、体調もあまり芳しそうでは無かった。
見かねてアッシュは、マッサージでもしてやろうかと、声を掛けた。

伽藺は随分と喜んだようで、それでは梅雨の合間にと干していた布団を、
一度取り込んで来ていただけますか、と。
久々に見たかのようなふわりとした笑顔を浮かべた。

長身で力もあるアッシュにとって、布団を取り込むことなどタオルを手に取るのと、
変わらないくらいの手間だった。
だから伽藺は、たびたび布団干しや取り込みを、夫に頼むことがあった。
夫も見かけに寄らず家事には協力的で、細かな気遣いを求められるようなものでなければ、
何でも快く引き受けたりしていた。

曾祖母の訃報を告げる従兄の訪問。
『次は懐かしい顔を連れて来る』と言ってはいたが、何かと忙しいのだろう・・・あれから音沙汰らしきものは無い。
渡すべきものというのは気になるが、伽藺も伽藺でやらなければならないことは、多かった。

そうこうしているうちに、流れるように月日は経ってゆく。
世界の終わりに際して、どう身を振るのか。
答えはある日、思考の海から浮上した夫より、言い渡された。

「滅びゆく世界と共に、運命を共にしよう」・・・と。

その結果に異存は無かった。もとより生き疲れていた命だ。
夫と出会ったことで、少しは力を与えられたけれど。それも、夫の在るが故のことだった。
ならば失う時もまた、彼の指示に従おう。

許されない罪人だと思っていた。死んだような生き方の中に、最後の瞬間だけ幸福の灯が点った。
それだけでもう、生まれてきて良かったと、そう思うだけの価値があるはずだ。

本当を言えばもっと長く生きて、子供たちの成長や将来を見届けたかった。
彼らが巣立ったあとの屋敷の中で、まるで老夫婦のような穏やかさで、淋しいですねぇなどと零してみたかった。

けれど。 夫は・・・、・・・多分・・・。
口ではどうと言っても、この世界を愛していたのだ。
そしてこの世界に愛されていないと思い込んでいた。
ゆえに彼もまた、生き疲れていたのだ・・・。

なら、淋しがりで不安がりな、あのひとを。もう独りにしないのが、妻たる自分の務め。
涙が出ないといえば嘘になる。
けれど伽藺は決めた。自分はあのひとのもの、であり。




「・・・私はもう、『主君』を、裏切らない」



 ◆

 「ココが目的の、ハウスかぁ」

幼い声が、海沿いの椰子の木陰からぽつりと、呟く。
いやどうやら、声が高くさらに片言なので、幼く聞こえるだけのようだ。
砂を踏んで現れた身体は、すらりと成長した少女のものだった。

「ココに住ンでる『カリン』を、カルタの村に連れて行けば、イインだネ」

すらりと長い手足は浅黒く、潮風に靡く髪は明るい亜麻色。
フード付きのくたびれた外套で身を覆っているから、どんな面立ちをしているかは見た限りではわからない。

 「どンなヒトかな、カッコイイといいナ、ウシシシシッ」

自身を『カルタ』と呼んだ少女は、裸足でたんと砂を蹴ると、常人では信じられないほどの跳躍力で、
高くそびえる屋敷のアーチ門を飛び越えた。

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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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