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うつつ世とまどろみの境を泳ぐ、とある妖の手記・・・らしいもの
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紅の空に浮かぶ、闇色がかった雲。
そんな不思議な現象が頭上に広がった翌日。

大陸中には、早くもアース神殿の印が捺された、告知が撒かれていた。
その内容は・・・、ごく近い未来に訪れるであろう、世界を襲う大規模な死の予告。

民は驚き、そして、嘆いた。
絶望と嗚咽は世界を広く覆い、そしてその中で彼らは、行く道を決めねばならなかった。

時空魔法などを駆使し、移住できる可能性のある世界を、探そうとする者。
自棄になる者。散り華を咲かせようとする者。
そして静かに・・・世界と共に、醒めない死という眠りに、就こうとする者・・・。



女もまた、道を決めねばならないと、思った。

異界との門を開くことの出来る召喚士でもあった彼女は、とりあえず驚き嘆く友らの為に、時空の狭間に、彼らの知るものに似た聖堂と、その周囲に広がる小さな街を作った。
得体の知れない場所だと思われるかも知れないとは思ったが、友人たちは快く足を踏み入れ・・・またその友に誘いを掛けてくれたようだ。

現界と妖界の境目であるがゆえに、安定感のない場所かも知れないが、しばらくの間は保つだろう。
空間を固定するための、魔力媒体である符から手を離し、ふぅと大きく息をついた。

さて次は。彼女本人の行く末を決めねばならない。
深緑の髪を揺らし、彼女は愛する夫の部屋へと、向かった。
「しばらく待って欲しい」と彼には言われていた。
「貴様はもっと取り乱すかと思ったのに、俺の方が困惑しているなど、珍しいな?」とも。

だって。私はもう最初の1日で、悩むだけ悩んであがくだけあがいて、全力も死力も尽くしましたもの・・・と。
その結果、もうどんな結果になるとしても、満足は出来ます、と。
女は思っていた。
それに考えても見れば。夫に出会わなければ、私は既に死んでいた。

伽藺・クインの行く先は、一人で決めることは出来ない。
彼女には永遠を誓った夫がいて、その夫は裏切りを決して許さない、・・・孤独に怯える人だから。
ゆえに滅多に人を寄せ付けない。そんな彼が自分を信じて永遠を誓った。
その心を、もう傷付けたくはないから、壊したくはないから。

もう決めていた。生も死も夫の決定に従う、・・・と。

けれど。一つだけ、気掛かり。もし夫が世界に殉ずる道を選んだとして、未だ幼い子供たちはどうしようかと。
あまり選びたくない方法ではあるけれど・・・。
現界を棄てて・・・妖界に移ることになるのであろう、実家の家族に託すべきだろうか?

ふるふる、と、首を振る。
まだあの人が、道を決めていないのだ、今から考えることでもない。
そう・・・あとは焦らず急かさず、ただ彼が結果を告げるその瞬間まで、その隣で寄り添っているのがいい。
それが今の私に出来ること。

女はそう自分自身に言い聞かせ、酒好きの夫のための晩酌の支度をしてから、扉を開いた。
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自己紹介
HN:
伽藺(カリン)・クイン
性別:
女性
職業:
アッシュ医師の妻/ナハリ軍務補佐官
趣味:
家事、お茶、お喋り
自己紹介:
医師アッシュ・クインの妻である柳の樹妖。
外見年齢は20歳ほど、実年齢は20代後半。
夫との間に男女の双子あり。

性格はおっとり。
行動は良く言えば優雅、悪く言えばどんくさい。
少し急ぐとすぐ転ぶ。
ネバーランド・ナハリ国の軍務省にも補佐官として所属している。

ユエルティートという名の少女を、小鳥と思い込んでペットとして飼っていたことがあり、
人の姿を現した今でも、娘代わりとして可愛がっている。
義兄にはウィルフェア氏とティーラ氏。氏の家族や同居人諸氏とも懇意で、何かとお世話になっている。

お茶が大好きでお茶菓子も好き。
甘党で大食漢。カロリーコントロールを言い渡されるレベル。
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